東電 柏崎刈羽原発には問題点山積 原発を再稼働する資格はない!
2007年7月16日に発生した中越沖地震(M6.8)により柏崎刈羽(かしわざきかりわ)原発はすべての運転中の炉が緊急停止に追い込まれた。この地震により、当原発では設計時の想定を大幅に超える揺れが観測された。原子炉建屋の地下の基礎盤上に設置された地震計で観測された最大加速度は、1号機の東西方向で680ガルであり、設計値273ガルの2.5倍に相当するものであった[1]。
地震が発生したとき、3、4、7号機は営業運転中、2号機は調整運転中であったが、強振動を関知してすべて自動的に停止した。その後冷温停止状態【原子炉内の温度が100℃未満となり、炉内の圧力が1気圧(大気圧)になっても沸騰しない安定な状態】に到達するには最大20時間を要した[2]。
想定した基準地震動を大幅に超える振動に見舞われたが、結果的には大事故に至らなかった。しかし3号機の変圧器付近から火災が発生し、自衛消防システムは地震の影響で機能せず、市の消防隊が到着して地震発生から2時間後にようやく鎮火した。この火災の映像がテレビなどを通じて全国的に報道されたので柏崎刈羽原発の地震被災が広く知られることになった。
東電と国の情報の透明性で特に問題となる事実として、中越沖地震の震源となったF-B活断層(海底断層)が、中越沖地震発生までに活断層と判明していながら、それを発表していなかったことがある。これについて新潟県の資料を引用する[3]。
(引用ここから) 活断層評価の未公表問題(F-B断層)
地震後、東京電力や国関係機関によって中越沖地震に関する地質調査や検討が行われている平成19年12月に、平成15年の国からの口頭指示に基づいて東京電力が活断層の再評価を行い、F-B断層をそれまで「長さ7~8kmの活断層ではない断層」としていたものを、「長さ20km程度の活断層」と再評価していたにもかかわらず、自治体への報告や公表をしていなかったことが明らかとなった。
また、再評価を指示した国も、その結果の報告を受けていながら公表していなかった。
これらは、地域住民に対する説明責任を十分に果たしておらず、立地地域の住民感情に対する配慮が不足していたもの言わざるを得ない。(引用ここまで)
非常に控えめな書き方だが内容的には抗議に近い。実際、地元住民は幾重にも事実と合致しない楽観論(偽りの安心安全)に囲まれて生活していたわけである。
柏崎刈羽原発については上記、「地元民に不安を与える情報は出さない」という東電の後ろ向きの姿勢が「東電不信」を醸成し、現在でも再稼働の地元同意の大きな障害になっている。しかも東電の不祥事は柏崎刈羽原発に限っても中越沖地震以後もとどまることなく、次々に発覚し、規制委員会からも特定核燃料物質の移動禁止命令(2021年3月)とか「柏崎刈羽原子力発電所の運転主体としての適格性の審査」(2017年12月)をするとか、厳しい評価を受けている。
不祥事の事例は枚挙に暇がないのだが、まず東電が自らHPで「不適切事案の概要」というページを設けて説明しているものに次の3件がある[4]。 「事務的なミスであり大きな問題ではない」という姿勢のようだが、技術的な問題でも原則からの逸脱はいつでもどこでも生じうる。それを起こしかねない東電の体質が怖いのである。
(1)IDカード不正使用(2020年9月20日)
社員が自分のIDカードを紛失したため、同僚のカードを無断借用して中央制御室まで進入した。認証装置でエラーが出ているにもかかわらず、警備職員が識別情報を登録をしなおして進入するよう指示した。これらの行為は一切報告されず、無断使用されたIDカードの本来の使用者が翌日、入室に使用できないため発覚した。
(2)核物質防護設備の機能の一部喪失
結末は「2021年3月16日、原子力規制委員会より、組織的な管理機能が低下しており核物質防護上重大な事態になり得る状況にあったと指摘を受け、2021年4月14日、核燃料物質の移動を禁じる命令が出された。」と記述されている。いかに重大な状況であったかがわかる。
東電の報告書を読むと核物質防護体制およびその運用がお粗末の限りを尽くしているという印象だ。たとえて言えば、防護管理部門の核物質防護の仕組みの理解が必要なレベルよりはるかに低い、マネージメント体制の不備、実施担当者の問題意識のなさ、上部管理部門からの点検体制の欠如、その他多くのことが指摘できよう。これで「核物質防護」をやっているつもりなのか?東電の原発部門全体に対する不信感を持ってもおかしくない内容である。「核燃料物質の移動禁止命令」を受けたのもうなずけるのだが、稼働している原子力発電所の核物質管理の現状がこんなものなら、それだけで即刻原発を停止する必要があるのではないか?また「外部から指摘されない限り安全性が確保されていないことに気づかない」という技術レベルは原発運転の資格がないことも論を待たない。
(3)7号機安全対策工事の一部未完了
これは協力企業に多くを依存した大きなプロジェクトにもかかわらず、国の審査を経た仕様が正しく図面化され、現場の施行に至るまで間違いなく、矛盾なく徹底され施行されているか、の細かい点検までがなされていないという基本的な問題をはらんでいるように思われる。つまり東電には原発を建設し安全に運転する総合的な技術力・能力はないのでは?と思わせるのである。
本来は原子炉メーカーが仕切るべきところ、発電業者が最上位にあって責任を持つという建前や体制もこの種の問題を発生しやすくする遠因になっているのではないか。打合せの不備、意思疎通不足など、どこにでも発生しうる問題だが、こと原子力発電所のような超大規模な設備でかつ最悪の場合は広大な国土・住民に被害を及ぼす可能性のあるものは別の原理での検査や評価が必要なはずである。コスト低減など経済的な論理の圧力があるなかでどこまで安全が保障できるのか、審査は今まで以上に厳しくすべきである。
このような問題が発覚している中で岸田前首相がぶちあげた”地球温暖化防止を口実にしたGX方針で原発の最大限活用”(実際は再生エネルギー活用より原発回帰優先を意図したもの)と福島第一原発の廃炉処理で巨額の経費が必要であり、他方で化石エネルギーの価格が高止まりの情勢のなかで原発の再稼働による採算性の向上をねらいたい東電の方針が合致し、使用済み核燃料をむつ市の中間貯蔵施設に搬入するなど無理筋の連発で強行突破をねらう動きが強まっている。政府、東電は福島第一原発の事故を本当に反省したのだろうか?このような強引な動きをみると「否である」と言わざるを得ない。
世界的にも原発が安全性強化や使用済み核燃料・廃炉などの処理で経済的競争力を失いつつあるにもかかわらず、無理やり原発を再稼働し、運転期間を延長し、ひいてはコスト競争力がないことの明白な新型革新炉にリプレースするなど、将来への負債を増やす政策をどこまで続けるつもりか?そして東南海、東海地震、あるいは火山の爆発など「いつどのくらいの規模で発生するかわからない自然現象=大規模自然災害」には十分供えられていない原発を動かすことにより、日本列島が住めないような状態 すなわち日本沈没に向かって疾走している政権や企業は何を考えているか??起きてしまってから、「想定外・予想外・めったに起こらないこと・運が悪かった」など言い訳されても許すわけにはいかない。本年1月の能登半島地震で明らかになったように珠洲原発が仮に建設され稼働していれば大変な大災害になったであろう。「『止めて良かった』と振り返る未来」をめざそう!
世の中では「柏崎刈羽原発」といえば地元の再稼働同意があるかどうかに注目が集まっている。確かに最近の原発再稼働の可否の議論は主として「地元にどの程度の経済的利益をもたらすか」の指標でまず第一に評価され、付加的に「実行可能な避難計画が策定されているかどうか」で判断されようとしている。しかし本来原発の根本問題、すなわち深層防護でいえば第1から第4のレベルまでの安全が十分はかられているかがまず問われる。新規制基準は旧基準よりはましになったとはいえ、コアキャッチャーなどの安全設備を要求しておらず、けして世界で一番厳しい基準ではない。加えて、地震・火山大国の日本では安全の要求度は他国では想像できないくらい高い。原子力規制員会は繰り返し「我々の審査は原発の安全を保障するものではない。新規制基準に適合しているかどうかの審査である」と言っている。”新規性基準に適合していても日本列島を震撼とさせる事故は起こりうる、しかしその確率は低いから経済的要求から無視する”と暗に言っているわけだろう。大津波の襲来を予測されていたにもかかわらず十分な対処策を講ぜず、福島第一原発の大事故を発生した電力事業者(東電)は、その大事故以後もこれだけいい加減な原発運用を続けているからには、原発事業者としての資格は失っている。新潟県民も十分それを知っている。東電は経済的な痛みを感じようが、早急に原発から撤退すべきである。なにより時代は再生可能エネルギーを中心とした発電に全力で移行すべき時代となりつつある。
さらに言えば電力需要の元とされている首都圏は遠いところでの原発に依存すれば良いという時代ではない。省エネルギーをさらに一層進めることは当然であるが、次第に電力も「地産地消」の方向に進むべきである時代であり、それに沿った政策を実施する責務がある。新築住宅への太陽光発電設備の義務化・補助金制度の強化等、強力に推進すべき時期に来ている。昨年本年の夏の記録破りの暑さの状況でも電力の供給不安が発生していないのは太陽光発電等再生可能エネルギーの有効性によるものであろう。子育て支援とならんでエネルギーの地産地消の進展が住みやすさと安全・安心の基準となるような施策を進めるべきである。
(2024年11月12日 連絡会事務局)
参考文献
[1] 「新潟県中越沖地震記録誌」第7章第1節 p.263.
https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/58956.pdf
[2] 「新潟県中越沖地震記録誌」第7章第2節 p.264.
https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/58957.pdf
[3] 「新潟県中越沖地震記録誌」第7章第6節 p.292.
https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/58962.pdf
[4] 東京電力ホールディングズ:柏崎刈羽原子力発電所 一連の不適切事案について、
https://www.tepco.co.jp/niigata_hq/kk-np/kaikaku/
1.敦賀原発(福井県) 敦賀原発2号機、初の再稼働不許可決定
原子力規制委員会は日本原電が再稼働を申請してきた敦賀原発2号機について原子炉建屋直下に活断層が存在する可能性を否定できないとして再稼働不許可の方針を決定した。(2024年8月2日)これは新規制基準からいえば当然の決定であるが、実際には追加資料提出という形でどこまでも審査が継続される事例が多い中で規制委員会の存在感を示したことにはなった。ただし日本原電が再審査を申請する余地は残っているし、日本原電はその方針であることを表明している。しかし、これまでの審査を覆す新たな証拠が必要となるのでハードルはそれなりに高いはずである。
敦賀原発2号機、「不合格」の審査書案を了承 規制委 (2024年8月28日 11:41 日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA265Y30W4A820C2000000/
2.東海第2原発(茨城県)水戸地裁で住民の避難体制の不備で再稼働差し止め判決
2021年3月18日 水戸地裁は深層防護の第5の防護レベルでは「実現可能な避難計画およびこれを実行しうる体制」が必要とされているが、それが達成されていないとして再稼働を差し止めた。この初審判決について原告被告双方が控訴して東京高裁で争われている。現在まで東海第二原発から30キロ圏内の14の市町村のうち広域避難計画を策定した自治体は7つとされているが、実際には2024年1月に発生した能登半島地震が示した複合災害の危険性にはほとんど対応できていない。またこの間に防潮堤工事の施工不良が発見され、規制委員会はその作り直しを要求しているが、日本原電は補修で対応しようとしている。さらに原告団は火山爆発の影響による過酷事故の可能性等、初審で認められなかった論点についても控訴審で争っている。
2021年3月18日 水戸地裁判決要旨
http://www.t2hairo.net/hanketsu/t2hanketsuyoushi.pdf
3.志賀原発(石川県) 2024能登半島地震で危険な原発であることを露呈
志賀原発の新規制基準適合性の審査では敷地内の活断層の有無が大きな争点になった。2024年1月1日の能登半島地震が発生し、志賀原発は長期停止中であったため過酷事故発生に至ることはなかったが、いろいろな異常事態が発生していた。 その総体については2024年4月12日に規制委員会の検討が始まったばかりである。北陸電力は2024年1月の能登半島地震における敷地内断層の地震後の状況を一通り説明して「どの断層も動いた形跡はない」という説明を行っている。しかし規制委員会はより直接的な証拠がほしいという希望を出し、また現地調査も重視するという発言をしている。
北陸電力の説明ではなにも問題な事象は生じていないという印象を与えるのだが、実際は震度5強でたいした揺れではなかったはずなのに、①外部電源を受ける変圧器が壊れ、3系統5回線のうち1系統2回線が使用不能になり、②2号機変圧器の絶縁油19,800Lが流出、③1、2号機燃料プールの水が飛散、水漏れ④通信系の障害で北川のモニタリングポストが最大時18か所故障、⑤1号機非常用ディーゼル発電機5機中1機が試運転中に停止などの多数のトラブルが生じている。より大きな地震動が襲った場合、志賀原発の安全性は大いに疑わしいと言える。
古賀茂明: 能登半島地震で露呈した原発の「不都合な真実」 政府が志賀原発を“異常なし”と強弁した理由
https://dot.asahi.com/articles/-/210770
4.川内原発(鹿児島県) 火山爆発の影響が深刻な第1の原発
3号機、4号機はすでに再稼働しているが、歴史上、近傍の姶良カルデラの爆発では火砕流が敷地内に到達した可能性があることは九州電力も認めており、火山爆発の影響が一番問題になる原発である。「本発電所の運用期間中に設計対応不可能な火山事象によって本発電所の安全性に影響を及ぼす可能性について十分小さい」と規制委員会は判断しているが、これに異議を唱える火山学者は多い。具体的には「巨大噴火の兆候の把握は困難」と専門家が認めており、十分な時間的余裕をもって火山事象に対処することは不可能である。また火山の噴出物の影響で外部電源の喪失、視界の喪失等になる可能性が高いなかでどのように核燃料を安全に移動することができるのか、不明である。なお規制委員会に火山の専門家がいないことが基本的な問題である。また火山の噴出物が到来する中で、住民の避難が必要な時間内に確実に行われるかどうか、たとえ計画があっても実効性には著しい疑問が残る。
中村 稔:川内原発の火山審査に専門家から疑義噴出 審査「合格」の根拠崩れた形に
東洋経済on-line https://toyokeizai.net/articles/-/47016
(2024年9月3日 連絡会事務局)