脱原発を進めよう


GX脱炭素電源法 マスコミは問題点を十分報道したのか?


 本欄で重要性と問題点を指摘していたGX脱炭素電源法案(5本の法律の改正を束ねた法案)が2023年5月31日に参議院で可決成立した。重要なわりには「脱炭素」「地球温暖化防止」「エネルギー危機回避」などの社会風潮を反映した恰好をしているので抵抗が難しかったのか、野党の対応が割れたせいか、束ね法案で審議の時間が十分でなかったせいか、マスコミでも問題視する論調の発信源は限られており、議論が深まらないまま成立した感が強い。ここでは新聞5社(朝日・読売・日経・毎日・東京)が十分に問題点を伝えたのかをweb上の記事で検証する。

 

 例えば読売新聞5月31日付で『「GX電源法」が成立、原発の60年超運転可能に…安定供給と脱炭素化の両立図る』と肯定的な見出しをつけて問題点抜きの報道である。60年超の運転を不安視する意見は福井県の原発立地地域の住民の声の一部や識者の見解としてしか報道されていない。

 

 日本経済新聞6月2日付の「GX電源法を安定供給の糧に」と題する社説で「温暖化ガスの排出削減と電力の安定供給の両立に向けて、再生可能エネルギーの最大限の拡大や原子力発電の有効活用を明確にしたのは妥当な方策だ。」とほぼ政府方針に全面賛成の立場を明らかにしている。不満の矛先はテロ対策不備とか書類ミスの続発などの電力会社の不祥事や組織的能力の欠如に向いている。つまり原発の積極活用へのプロセスの中でネックを生じている現場への不満である。

 

 一方、東京新聞はWebのトップページに「原発のない国へ」のロゴを掲げているから社の方針として脱原発を明記している数少ない新聞社の一つである。以下社説をみると、

 2022年12月21日には「老朽原発の追認 不老不死はあり得ない」で関西電力美浜第3号機の運転差し止め請求を退けた大阪地裁の判決を”(「原則四十年、最長六十年」の運転期限を撤廃し)「原発復権」を加速する政府の方針を追認するような判断”と断じた。

 2023年2月16日「原発60年超容認 規制委の独立性を疑う」では”原子力規制委員会が原発の六十年超運転を容認する新たな規制制度を決めた。反対意見を押し切る異例の多数決。原発復権を急ぐ政府と歩調を合わせる規制委は、もはや独立した規制機関とは言い難い。”と規制委員会の機能不全を指摘している。

 4月21日「独の脱原発完了 危険性を踏まえた賢慮」と原発を完全に停止させたドイツにはエネルギー供給の不安を越えた「原発の危険性」への賢慮があると評価している。同日

 4月21日「脱炭素電源法案 フクシマ忘却宣言だ」との見出しで”法案がこのまま通れば、3・11の重要な教訓である「規制と推進の分離」は崩れ、「国策」の旗のもと、経産省主導で老朽原発の延命が進んでいく恐れが強い。”と指摘している。

 衆議院での採決が迫る中、5月29日から6月1日までGX法案採決へ向けての審議強行への不信表明記事を連載しているが、成立を伝える5月31日の記事の中ではで『原発「60年超運転」法が成立 自公維国などが賛成 電力業界の主張丸のみ 福島事故の反省と教訓どこへ』という見出しを掲げ、「老朽原発の長期運転や原発産業への支援強化などが盛り込まれ、東京電力福島第一原発事故後に抑制的だった原子力政策の大転換となる。」と警鐘を鳴らしている。

 6月27日「原子力規制委 ブレーキ役、担ってこそ」の社説では”老朽原発に対しては、とりわけ慎重に、府省庁の影響下にない独立機関の矜持(きょうじ)を持って、くれぐれも政治への「忖度(そんたく)」なしで審査に臨んでもらいたい。「GX脱炭素電源法」が「原発推進法」の意味を持つことにならぬよう。”という主張で結んでいる。

 

 朝日新聞は福島第一原発事故以来、各種報道において原発の問題点や危険性について積極的に報道してきた印象があるが、現在の論調はかなり慎重である。

 2023年3月11日の東日本大震災と福島第一原発事故発生から12年の日の社説には根本的な教訓反省をせず原発回帰する岸田政権に対する批判はされているのだが、「記念日だからの物言い」に終わっている感もある。

 4月3日社説「原子力基本法 この改正に反対する」が中では一番明確な異議申し立てで「安全のための資金確保は必要だが、電力自由化などで原発が不採算になった段階でも、国が事業継続を支え続けると宣言することにならないか。」と基本法で原発推進に強く国が関与する姿勢を強める記述に異を唱えている。しかしその後は

 4月18日社説「原発推進法案 根本の議論を尽くせ」では本文で「原発政策を推進一辺倒に固定化させる懸念が強い」と指摘しながらも煮え切らない見出しになるのはなぜか。

 6月2日社説の「原発推進法 難題に背向ける無責任」では”根本の問題を含め、数々の疑問が置き去りにされた。この姿勢が続くなら、原発政策が推進一辺倒に硬直化するのは必至だろう。今回の転換は経済産業省の主導で進み、福島の事故を踏まえた政策の根幹である「推進と規制の分離」すら大きく揺らいでいる。”という指摘はなされているが、審議不足の批判であり、原発復帰に対して基本的に批判的な視点は弱い。

 6月6日社説「束ね法案 審議の形骸化防ぐ策を」でも審議過程を問題としているが、法案本体の批判には踏み込んでいない。

 ただ新聞社としての見解があまり表に出てこないだけ識者のインタビューで批判的な見解あるいは政府見解と違った視点の紹介は頻繁にやっている。たとえば2023年2月28日の元原子力委員会委員長代理 鈴木達治郎長崎大学教授による政府案での原子力基本法改定への反論、規制委員会の審議での違和感の紹介(2月14日)、2011年の福島第一原発事故に対処した当時の菅直人総理(1月21日)、など。いわば新聞社自身の判断や責任をできるだけ回避しながら側面からの情報提供を続ける、現在の朝日新聞の体質を象徴するような報道手法である。

 

 それに比べると毎日新聞は問題点を取り上げる記事は多いのだが、短い記事が多い傾向があり、個々の記事のつっこみが不足している感が残る。また社説ではドイツの脱原発については繰り返し取り上げるのだが、日本で現に審議中であるGX法案を取り上げたものは少ない。ただし5月26日付社説で「原子力基本法の改正 議論なき原発傾斜危うい」との見出しで「原案通り成立すれば、東京電力福島第1原発事故を教訓に『原発への依存度を可能な限り低減する』と明記したエネルギー基本計画の内容に逆行する。原発推進路線が固定化され、将来、政策選択の幅が狭まる恐れがある。」と核心をついた内容になっている。

 

 こうしてみてくると、基本的には政府方針と方向性が一致する読売、日経は別として、問題指摘を行っている朝日・毎日・東京も特に朝日の慎重報道が際立ち、十分に内容的な分析や問題提起をしないで終わっていると言わざるを得ない。「原子力基本法」を「原発推進基本法」に変質させるような重大な改定について声を大にして警鐘を鳴らすのが大新聞の責務ではないのか?あるいはそうできない事情があるのか?疑問の残る報道の実態である。今後はますますインターネットを中心とした識者や運動組織、市民団体の発信に頼らざるを得なくなるのだろうか。それも発信者の信頼性・恒常性の検証等、難しい問題を抱えており、本来は議会での論議の質の高まりを構築する必要があるのではないか。それには政党あるいはそれを支える各種の団体の調査・分析・立案能力の向上も必要になってくるだろう。

                                                                                                                 (連絡会事務局 2023年7月18日)


脱炭素を口実に原子力基本法を原発推進法に衣替え?


GX脱炭素電源法案の衆議院での審議状況をお伝えします。(2023年4月17日掲載 連絡会事務局)

 

岸田内閣が2023年2月28日に閣議決定した「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」(通称:GX脱炭素電源法案)が現在、国会で審議されています。これまでこのページでも指摘してきたいろいろ重大な問題をはらんだ法案が  6本の法律を一度に改定すると称して束ね法案として審議されています。

 

 その審議過程(4月14日衆議院の経済産業委員会)が 衆議院のTVインターネット審議中継ビデオライブラリー の下記ビデオで 視聴できます。全体では約3時間ですが、参考人や議員の発言者ごと(約15~20分)に該当部分だけ選ぶこともできます。ぜひご覧ください。

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54527&media_type=

 

そこに参考人として意見陳述した国際環境NGO FoE Japanのmituda 事務局長の満田夏花氏

 が自分の意見陳述の 内容を以下にまとめています。

 

https://foejapan.org/issue/20230414/12382/

 

当日配布したと思われる発言資料

 https://foejapan.org/wpcms/wp-content/uploads/230414.pdf

の項目だけあげると以下のようになっています。

1. 福島原発事故は終わっていない。事故原因の解明も道半ば

2. プロセスに関する問題~国民の声が反映されていない

3. 原子力基本法:「国の責務」を詳細に書き込み、原子力産業を手厚く支援

4. 原子炉等規制法の運転期間に関する現行規定を削除する立法事実はあるのか

5. 運転期間の許認可を規制委から経産省へ

6. 「運転停止期間の除外」は合理性がない

 

特に3.では以下に改定部分の一部を示すように「国の責務を明確化する」と称する原子力基本法の改定案で第二条の三の三では原発業界の露払い(環境整備)を業界に対して約束し、さらには「電気事業に係る制度の抜本的な改革が実施された状況においても」原発事業者が「安定的にその事業を行うことができる事業環境を整備する」と約束しており、税金の無駄使いも辞さず国の政策に足枷をはめるがごとくの約束で原発業界への平身低頭ぶりは異常です。経産省が規制委員会から実質的な審査権限を奪い、業界と蜜月の原子力村再現とは許せない!!

 

(「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」より一部転載)

                                  (赤字、太字の選択は連絡会事務局によるもの)

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第五条 原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)の一部を次のように改正する。

・・・・・(中略)・・・・・

第二条の次に次の三条を加える

(国の責務)

第二条の二 国は、エネルギーとしての原子力利用に当たつては、原子力発電を電源の選択肢の一つとして活用することによる電気の安定供給の確保、我が国における脱炭素社会の実現に向けた発電事業における非化石エネルギー源の利用の促進及びエネルギーの供給に係る自律性の向上に資することができるよう、必要な措置を講ずる責務を有する。

2 国は、エネルギーとしての原子力利用に当たつては、原子力施設(注釈省略)の安全性の向上に不断に取り組むこと等によりその安全性を確保することを前提として、原子力事故による災害の防止に関し万全の措置を講じつつ、原子力施設が立地する地域の住民をはじめとする国民の原子力発電に対する信頼を確保し、その理解を得るために必要な取組及び地域振興その他の原子力施設が立地する地域の課題の解決に向けた取組を推進する責務を有する

 

(原子力利用に関する基本的施策)

第二条の三 国は、原子力発電を適切に活用することができるよう、原子力施設の安全性を確保することを前提としつつ、次に掲げる施策その他の必要な施策を講ずるものとする。

一 原子力発電に係る高度な技術の維持及び開発を促進し、これらを行う人材の育成及び確保を図り、並びに当該技術の維持及び開発のために必要な産業基盤を維持し、及び強化するための施策

二 原子力に関する研究及び開発に取り組む事業者、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構その他の関係者の相互の連携並びに当該研究及び開発に関する国際的な連携を強化するための施策その他の当該研究及び開発の推進並びにこれらの成果の円滑な実用化を図るための施策

三 電気事業に係る制度の抜本的な改革が実施された状況においても、原子力事業者が原子力施設の安全性を確保するために必要な投資を行うことその他の安定的にその事業を行うことができる事業環境を整備するための施策

四 (以下略)

 


GX基本方針・GX推進法案の原発回帰・化石燃料執着の異常さ


 2023年2月10日 岸田内閣が「GX実現に向けた基本方針(以下、GX基本方針)」及び「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案(以下、GX推進法案)」を閣議決定したそうである。

 

グリーン・トランスフォメーション(GX)政策が「気候変動の主な要因となっている温室効果ガスの排出量を削減しようという世界の流れを経済成長の機会ととらえ、排出削減と産業競争力向上の両立を目指す取り組みのこと」という看板に偽りのない内容で進んでいけば前向きの政策にもなりうるのだろうが、実際には特定の産業や技術に肩入れした歪められた政策になっていると言わざるをえない。

 

すでに自然エネルギー財団による的確な批判的声明も公表されているが、

https://www.renewable-ei.org/activities/reports/20230214.php

 ここでは、多少違った視点も含め、問題点を指摘したい。

 

 まず大方の批判が集中しているような「電力エネルギー源としての原発の最大限活用」の方向性である。これは第1に老朽化している原発の稼働寿命をあれこれいいながらもこれまでの上限であった60年より延長するものである。老朽化原発のもつ基本的な材質劣化に加え運転休止期間中をであれシステムとしての原発全体の老朽化は進むこと、その他熟練原発技術者の減少やいわゆるサプライチェーンの後退、さらには躍進する再生エネルギーとのコスト競争など安全性や技術を維持していくための環境が悪化する中での稼働となる。すなわち「稼働環境悪化の中での原発活用の無理強い」につながる方策である。ある意味では政府が期待する「次世代革新炉」などに比べれば安全性において劣ることは論を待たないわけで、単なる「電力会社の収益向上のための方策」としか言いようがない。 その陰には原発立地地域を中心とした住民や自治体の事故発生への懸念や避難対策などの新たな負荷を押し付けることにもなる。

 

 第2は原発の廃炉を利用して、あるいは老朽化原発をリプレースすると称して「次世代革新炉」を新設するとしていることである。次世代革新炉がコスト的に再生エネルギーに太刀打ちできないことはすでに指摘されているが、「次世代」であれ、他の発電手段に比べて圧倒的に地震や津波、火山爆発などの自然災害に弱く、また高速増殖炉の実現の可能性もないような核燃料サイクルのシステムでは使用済み核燃料の処分に困り、将来世代への負の遺産を残すものでしかない。さらに再処理技術そのものが行き場のない高濃度核汚染物質を生産するシステムであり、またその再処理工程そのものに核汚染物質の大気中あるいは海洋への大量放出がつきまとう。ここでは「地球の汚染・負の遺産を増産する発電技術」には変わらないと指摘しておこう。これがグリーンだとか、地球環境の改善だとかに役立つという口実で新たに建設されようとすることそのものが論理矛盾である。

 

 第3は基本方針の化石燃料への異常な執着である。これが石油石炭の産出国の方針であればまだわかるが、世界中がすでに再生エネルギーを基本とした社会へ進化しようとしている時代に、いたずらに水素やアンモニアによる混焼であるとか、CCS技術による炭素排出の抑制であるとかにこだわっている。前者ではグリーンな水素やアンモニアの確保が不明なうえに技術的にも炭素の排出削減にどの程度寄与するのか見通しが立っていない。後者では決定的なコスト高を解消する知恵すら浮かんでいない。いわば「空騒ぎの技術開発」であり、行きつく先は再生エネルギー社会の中に浮かんだ「ガラパゴス」でしかない。独自の発展を遂げた技術(種)として珍重はされるかもしれないが、世界の大勢からは取り残された存在で、それによって自立的エネルギーシステムを構築できるというものでもないだろう。

 

 第4には再生エネルギーへの明確な推進政策が不明瞭な点である。太陽光の利用については現実に実用化が進みつつあるようにみえるが、立地面積の確保の政策や あるいは配送電における中心的な位置を与えてシステムを再編するなどの環境づくりなど強力な社会的環境作りが見えてこない。技術的には大規模な蓄電のシステムの開発や洋上風力発電の推進が社会的に必要とされているのだが、そういう「最後の基幹技術」へのチャレンジや後押しがお座なりにしか触れられないのは残念である。

 

 以上、GX基本方針についてのコメントとなるが、「看板に偽りあり」の方針は至急 根本的に見直す必要があるのではないか?

                                                                                                                         (2023年2月21日 連絡会事務局)

 


東電の旧経営陣、東京高裁(2審)で無罪判決―それでは国に責任があるのでは?


2023年1月18日 東京高等裁判所は福島第一原発事故当時の東電の旧経営陣3名の刑事裁判において無罪の判決を下した。「10mを越える津波が襲来する可能性は予測できず、原発の運転停止を講じるべき業務上の注意義務があったとは認められない」という判断である。

注意義務を問うだけの確たる情報がない状態だったから刑事責任は問えないという論理である。ところで業務上過失致死(刑法第211条)は次のように記述している。

 

(業務上過失致死傷等)第211条 業務上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も,同様とする。

 

結果として原発運転という業務により必要な安全対策を行わなかったから数十人の原発関連死を引き起こすような重大事故を発生した者に重過失致死は適用しなくてよいのか?「業務上必要な注意」に値するものがあったのか否かが争点になるが、東電の株主代表訴訟では国の地震予測「長期評価」の信頼性を認め、業務上の注意義務を怠ったと判断しているわけで、まったく違った結論になっている。以下では法律的判断の詳細に立ち入ることはしないが、基本的な疑問について述べる。

 

まず東京高裁がこだわっていることに国の長期評価が「10メートル盤を超える津波が襲来するという現実的な可能性を認識させるような性質を備えた情報」ではないというのだが、津波や地震などの地学的な現象は本質的に「いつどのくらいの規模で発生する」と確定的に予測できない現象なのである。したがって「現実的な可能性」にこだわれば確率論的な予測や情報は突き詰めれば「考慮に値しない」と東京高裁は言っているわけである。しかし現実には確率論的な現象がきょうにも明日にも発生しうるわけで、東日本大震災もその一つであった。東京高裁はそれが現実の枠組みであることを意識的に無視している。

 

東京高裁の判決が正しいとすれば、東電は安全か危険かの判断、あるいはどの程度の津波対策をすればよいのかという情報が得られないまま、結果的に不十分な安全対策のもとで運転していたから事故を起こしたわけだが、それが「業務上必要な注意を怠ったとは言えない」という判断になった。

 

もし地学的な確率現象にさらされ、さらには戦乱のターゲットにもなりかねない原発が「現実的な可能性」がないからと不十分な安全対策のもとで運転することが許されるなら、本来このような巨大爆弾のような装置を運転する正当性はない。したがって国がそのような運転を認めていたとすれば、国に責任があるのではないか?東電に責任がないなら、どこに責任があるのか、それを許した国ではないのか?

 

さらにもし東電にも国にも責任がないとすれば、そのような安全性の保障されない巨大な危険性を抱えた巨大装置を運転することそのものが誤りなのではないか?原発の設計・設置・運転そのものが本来欠陥をもつシステムであり許されない存在なのではないのか?

 

ともかく今回の高裁判決は東電の主張をうのみにしたようなもので「原発の最大限活用」に突き進む現政権への忖度なりいわば「影響力」によって司法が判断を実質放棄していることにならないか?司法の存在が問われる判決の一つである。国の責任を問う必要性を示した判決とも言える

 

「国の責任の問題」はすぐれて今日的な問題である。なぜならば原子力規制委員会は繰り返し「我々がやっていることは新規制基準に原子炉が適合しているかどうかの審査であって原子炉の安全性を保障するものではない」と発言している。つまり将来、何か事故が発生しても規制委員会は責任をとらず、各企業も「我々に要求されていることは新規制基準に適合した原発をを実現することだ」として事故発生の責任はどこもとらない、ということなりかねないからである。

 

安全性の保障できない原子力発電は至急退場してもらわなくては日本の未来はない。

                                       (2023年1月24日 連絡会事務局)

 


なりふり構わず原発依存にまっしぐら---これこそ日本の危機


 岸田政権は経産省を中心とした原子力村と一体になり「最大限の原発の活用」に突っ走っている。すでに樋口元裁判長から「日本の原発の地震対策はゆるい。民間の耐震設備以下で再稼働を容認できない」という厳しい批判を浴びながらも、日本沈没になりかねない老朽原発の再稼働、さらには60年越えの稼働のために「停止期間は60年に含めない」(1*)などの小細工、さらには廃炉原発をリプレースすると称して新増設を企んでいる。その安全基準には火山学・地震学の現在の共通認識「この100年間に破局的・大規模な火山爆発・大地震が発生するかどうか予知は困難」という警鐘は反映していない。加えて、ウクライナ戦争は自国の原発は自国に仕掛けられた最悪の地雷になりかねないという事実をまざまざと見せつけた。

 自然エネルギーが原発よりはるかに安全でコストも大幅に低い時代に突入しつつあるとき、石炭火力と原発に依存しようという岸田政権はまったく日本の利益を損なう道を突っ走る政権としか言いようがない。目先の空想的利益に眼を奪われ、大局的判断のできない日本では、先進国のみならず開発途上国からも軽視・蔑視されるような存在になるのではないだろうか?

 注(*1) 東京新聞は東電柏崎刈羽原発で11年間停止のうちに腐食によって配管に穴があいたことを報じ、「リスク軽視 停止中も劣化」としている。(2022年11月29日朝刊1面)

                                        (2022年11月29日 事務局作成)


GXトランスフォーメイションの美名に隠れて原発依存政策を復活させることは許されない


 岸田内閣は2022年6月7日付の全般的経済政策「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」(資料1)の中で「4.GX(グリーン・トランスフォーメーション)及びDX(デジタル・トランスフォーメーション)への投資」という項目を設け「国際公約達成と、我が国の産業競争力強化・経済成長の同時実現に向けて、今後10年間に官民協調で150兆円規模のグリーン・トランスフォーメーション(GX)投資を実現する」と打ち出した。グリーン・トランスフォーメーションとは「気候変動の主な要因となっている温室効果ガスの排出量を削減しようという世界の流れを経済成長の機会ととらえ、排出削減と産業競争力向上の両立を目指す取り組みのこと」(河合達郎 asahi-digital 2022年9月22日)だそうだが、基本的に経済の立場から気候変動対策・脱炭素の動きをチャンスと捉える立場である。具体的取組例として水素・アンモニア、洋上風力等の再生可能エネルギー、CCS(炭素の回収と地下貯留)、カーボンリサイクル、自動車、住宅・建築物、省電力性能に優れた半導体、蓄電池、などが並んでいるが、「その他産業部門の脱炭素化」の項目の中に「次世代太陽電池、革新的地熱発電、革新原子炉(革新軽水炉、小型炉、高温ガス炉、高速炉等)」という言葉で原発の新設・更新をめざすことを忍び込ませた。

 

 さらに2022年8月24日にはGX実行推進担当大臣名で「日本のエネルギーの安定供給の再構築」案(資料2)を発表した。この中で2050年カーボンニュートラルに向けた原子力発電の世界的見直しの流れのなかで国際エネルギー機関(IEA)が「原子力発電の設備容量の倍増が必要」「原子力の長期運転により、他の低炭素技術と比べても大幅なコスト削減が見込まれる」としているとして、これに便乗して日本の原発依存政策を完全復活させようとした。すなわち、東京電力福島第一原子力発電所事故後のエネルギー政策が遅滞しているとして、当面2,3年程度の対応として原子力部門では「再稼働済 10 基のうち、最大9基の稼働確保に向け工事短縮努力、定期点検スケジュールの調整 等」「設置変更許可済7基(東日本含む)の再稼働に向け 国が前面に立った対応(安全向上への組織改革) 等」が必要だとした。さらにより長期的なエネルギー政策の遅滞解消のためすでに再稼働が認可されている原子炉の早期稼働(最大9基)、設置許可済み7基の着実な再稼働・地元の理解確保のための取組を求め「国が前面に立った対応」という記述もみられる。また設置許可審査中10基あるいは未申請9基については再稼働をめざす活動の強化を求めている。さらに「再稼働の先の展開を見据えた構造的な課題」という表題で「選択肢の確保 :次世代革新炉の開発・建設、運転期間の延長のあり方 等 」「予見性の確保 :バックエンドでの国の取組、事業環境整備 等」と国が先頭にたって再稼働の先の拡大まで見通す方針を打ち出した。(下図参照 資料2の12ページより)

  

 これはこれまでの「東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が国としては、安全を最優先し、経済的に自立し脱炭素化した再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する。」(第6次エネルギー基本計画 2021年10月 資料3)とは打って変わって”原発完全復活・最大限活用”を打ち出したものである。

 

 この先何が飛びだしてくるのかは予測はつかないが、第6次エネルギー基本計画という国の基本文書で指摘されている 「福島第一原発事故の真摯な反省」「東京電力柏崎刈羽原子力発電所において発生した核物質防護に関する一連の事案」「再稼働や使用済燃料対策、核燃料サイクル、最終処分、廃炉等の原子力事業を取り巻く様々な課題 」が過去のことになったり、解決されたわけではなく、危険性の評価でいえば他の発電方法に比べて圧倒的に悪いわけだから、今や再生エネルギーが原子力よりも圧倒的にコストが低い時代を迎えようとしている時に”事故によっても運転によっても国富を失うような政策”を復活すべきではない 。

 

【出典】

 資料1: 新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~

 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2022.pdf

資料2:日本のエネルギーの安定供給の再構築 2022年8月24日 GX実行推進担当大臣

 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai2/siryou1.pdf

資料3:第6次エネルギー基本計画 2021年10月

 https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005-1.pdf

 

(2022年10月11日 事務局作成)

【下の図は資料2の12ページによる】


MOX燃料の生産・消費は使用済み核燃料問題の先送り! 緊急に脱「再処理」を!


2022年9月1日から6日にかけて毎日新聞の電子版に「迷走プルトニウム」という記事が連載された。(下記URL参照)それを参考に、MOX燃料そして核燃料再処理技術を考えてみる。

日本保有の22トンが英国で塩漬け 国内原発での再利用難航(2022年9月1日)
     https://mainichi.jp/articles/20220830/k00/00m/040/094000c
「裏技」編み出した電力業界 塩漬け解消の切り札となるのか(2022年9月2日)
    https://mainichi.jp/articles/20220831/k00/00m/040/153000c
仏のMOX燃料工場で相次ぐ不良品 原発で異常核反応も (2022年9月3日)
    https://mainichi.jp/articles/20220831/k00/00m/040/238000c
燃料の不良品多発で脱プルサーマル化 仏が直面する「負のサイクル (2022年9月4日)
     https://mainichi.jp/articles/20220901/k00/00m/040/145000c
高すぎるMOX燃料 電力会社が口をつぐむその価格と経済性 (2022年9月5日)
    https://mainichi.jp/articles/20220902/k00/00m/040/173000c
使用済みMOX燃料は「ごみ」となる運命か 再処理に技術的な壁(2022年9月6日)
    https://mainichi.jp/articles/20220902/k00/00m/040/195000c

 

まず現在、日本では核燃料再処理設備は稼働していない。したがって電力会社はイギリス、フランスの2か国に再処理(使用済みウラン燃料のプルトニウム抽出)を依頼している。ところがイギリスの2工場では 、まずセラフィールドにあるソープ再処理工場で分離したプルトニウムをMOX燃料に加工するMDF工場が製造したペレットの検査データを捏造したという事件を起こし閉鎖、続いてもう一つのSMP工場も福島第一原発事故の結果、日本の需要が見込めないという理由で工場閉鎖。一方フランスのMOX燃料加工工場(マルセイユに近いメロックス工場 )ではプルトニウムの塊が残ってしまう不良率が増大し、生産量は2021年は2015年の3割程度まで低下している。

 

日本は分離済みプルトニウムを英国に21.8トン、フランスに14.8トン、国内に9.3トンの計約46トン備蓄している。これは原爆に換算すると数千発分に相当するとして国際的には「なぜそのように大量のプルトニウムを保有するのか?」という核兵器転用への疑いの視線で見られる。しかしもう一つの現実としてはMOX燃料への加工・プルトニウムの消費が進まず使用済みウラン燃料の行き場(保管場所)が不足するという問題にもなっている。

 

高速増殖炉の開発を中止した日本としては使用済みウラン燃料は再処理してプルトニウムを抽出する限りは、MOX燃料として活用することが唯一のプルトニウム消費の手段になる。しかし使用済みMOX燃料は発熱量が多く使用済みウラン燃料(10年程度)の数倍から10倍(つまり数十年から100年程度)プールで冷却する必要があるとされる。さらにMOX燃料は再度「再処理する」という技術的見込みが立っていない。価格もウラン燃料の8倍程度といわれる。すなわちMOX燃料への転換は単なる使用済み核燃料処分問題の先送りであり、新たに処分の難しいゴミを発生することになる。核のゴミとなれば原発からの搬出先も見つけがたい。つまりMOX燃料として活用すること自体が使用済み核燃料問題に新たな困難を持ち込んでいる。

 

これら全体の状況をながめると軽水炉による発電を準国産エネルギーと称して国が先頭になって推進してきたことの政策的な問題点が露呈している。絶対安全神話をふりまいて福島第一原発事故に至ったことそのものが破綻を示しているのだが、それ以外にもすでに原発利用の下流すなわち核のゴミの処分で行き詰まっている。さらに「全量再処理」の建前で走ってきたが、あちこちで筋書通りにいかない状態になっている。核燃料サイクルの主役であった高速増殖炉の開発中止、六ケ所村再処理工場の建設が技術的に進まず建設費は高騰、福島第一原発事故による国内原発の停止と電気エネルギー源としての信頼性の低下、原発の再稼働・新設費用の高騰、「安価な電気エネルギー」と言えない状態の現出、将来の主要発電エネルギーの座を再生エネルギーに奪われる、いつまでも核のゴミの処分方法が決まらず処分地も決まらない、決まっても10万年間の管理の負担が子孫に残る等々。

 

その一部としてMOX燃料にまつわる問題が顕在化しているといえる。MOX燃料の使用あるいはウラン燃料の再処理がなぜ必要なのか?をたどると、結局増え続ける使用済みウラン燃料が原発敷地内あるいは国内で貯蔵しきれないということ基づいている。 つまり(全量再処理の方針のもとでは)原発を稼働させるために再処理設備を動かし、使用済みウラン燃料から加工されたMOX燃料をプルサーマル等で消費し、というサイクルが必要となっているためである。これを「全量再処理はやめ。直接処分する」に置き換えれば、(過去分の処理という問題は残るが)少なくとも再処理にまつわる問題は小さくなる。ウクライナのように原発が戦争遂行の手段としてターゲットにされるような危険性を排除するためにも、脱原発とともに脱「全量再処理」が緊急に必要である。

                                                                                  (文責:事務局 2022年9月13日)


無視できない火山の破局的噴火の危険性


 2022年1月15日、南太平洋の島国トンガの海底火山が爆発した。海底火山の爆発としては過去100年で最大級ということだが、真上からみた衛星画像は火山爆発の恐ろしさをあらためて印象付けた。

 

 この爆発の規模を数量的に評価するには 火山爆発指数(Volcanic Explosion Index, VEI:噴出物の体積を見積もり、その指数で評価したもの VIE=5 が1km3(立方キロメートル)級に相当)がよく用いられるが、トンガの爆発はVEI5ないし6で百年に一度の頻度とされる。日本は太平洋の西側にある火山国であり、火山の数も多く、実際に歴史上カルデラ爆発と評価される破局的火山爆発を多数経験している。

 

 一つの例として鹿児島県の姶良(あいら)カルデラで約3万年前に発生した巨大噴火ではVIE8に近かったとされ、カルデラから40㎞の川内(せんだい)原発周辺でも約10mの火砕流堆積物があったという。[1]

 

 火山爆発の原発への影響を加味すると、たとえば火砕流が襲ってくる場合は原子炉の安全性を保ことは困難として建設を認めるべきではない。この論理はようやく福島第一事故以後の新規制基準で考慮はされつつある。 しかしながら地震の場合のように立地規制の数値基準が明示されていない。

 

 また実際に火山活動をモニタリングすることによって噴火の規模を含めた予兆を観測して運転を停止するなどの技術は未確立である。建前上は対策が打てているように記述されていようとも事実上は何の歯止めもない、ということになる。

 

 さらに原子力規制庁は「原子力発電所の火山影響評価ガイド」の関連文書で次のように述べている。[2] 「巨大噴火は、広域的な地域に重大かつ深刻な災害を引き起こすものである一方、その発生の可能性は低頻度な事象である。現在の火山学の知見に照らし合わせて考えた場合には運用期間中に巨大噴火が発生する可能性が全くないとは言い切れないものの、これを想定した法規制や防災対策が原子力安全規制以外の分野においては行われていない。したがって、巨大噴火によるリスクは、社会通念上容認される水準であると判断できる。 」

 

 これでは福島第一原発事故で明らかになったような「原発がいったん重大事故を発生した場合の社会的に甚大な被害」を何ら考慮しているものではなく、規制を放棄した規制庁といわざるを得ない。

 

 これについて日本弁護士連合会の意見書[3]で次のように厳しく批判しているが規制委員会の基本姿勢は何ら変わっていない。「このような現在の科学技術水準を踏まえれば,火山事象に対する立地評価のあるべき規制基準としては,少なくとも周辺の火山の過去最大規模の噴火によって,設計対応不可能な火山事象が原発に到達したと考えられる場合には,当該原子力発電所は立地不適とすべきである。

 現在の規制は,このような現在の科学技術水準を踏まえておらず,検討対象火山の噴火の時期及び規模が相当前の時点で的確に予測できることを前提としており,火山ガイドにおける規制内容は不合理であると言わざるを得ない。」

 

 なおこれを含めた多数の批判を受けて改定されたと考えられる現在の「原子力発電所の火山影響評価ガイド(2019年12月18日改定)」のURLを[4]に示すが、上記[3]の意見書の考え方は取り入れられていない。

 

 2019年に改定された火山影響評価ガイドについて火山学者の立場から「火山学の知見が活かされない原発の規制基準」という趣旨で批判が加えられている[5] 。立地の適・不適を評価する際の数値基準が設定されていないことの不備やモニタリングで巨大噴火の予兆が十分な時間的余裕をもって把握できるとしているが現在の火山学の現状ではそれは不可能であること、さらに上記[2]の「社会通念上許容」の考え方が事実上維持されていることの不適切さを指摘している。

 

 原発に及ぼす火山の影響は過去に大規模な爆発が多数あったことの確認されている南九州、すなわち川内原発で大きな問題となっている。2019年6月17日の福岡地裁判決では過去に川内原発周辺で起きた破局的噴火については「現在の科学で予知することは不可能で、影響は著しく重大」としつつも、「極めて低頻度の自然災害の危険性は、発生の可能性が相応の根拠で示されない限り、自然災害として想定されなくても不合理とは言えない」として「破局的噴火は原子炉等規制法の想定する自然災害に含まれず、火山ガイドが不合理とはいえない」と結論付けた。この判決はまさに火山の破局的噴火が考慮されず原発が運転されてい現状を示している。

 

[1] 朝日新聞ディジタル:「約3万年前の破局噴火、VEI8に近かった 東京でも10cm降灰」

https://www.asahi.com/articles/ASQ1T5FCZQ1TPLBJ002.html

[2] 原子力発電所の火山影響評価ガイドにおける

「設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価」に関する

基本的な考え方について (2018年3月7日 原子力規制庁)

https://www.nsr.go.jp/data/000222268.pdf

[3]  日本弁護士連合会「原子力発電所の火山影響評価ガイド」に基づく原子力発電所の適合性審査に関する意見書」(2018年7月12日)

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2018/opinion_180712_3.pdf

[4] 原子力発電所の火山影響評価ガイド(原子力規制委員会 2019年12月18日改定)

 https://www.nsr.go.jp/data/000294814.pdf

[5] 小山真人:学術の動向, 2020年12月号, p.54-57

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/25/12/25_12_54/_pdf/-char/ja

 

                   (事務局作成 2022年8月4日掲載)


東京地裁 東電旧経営陣に13兆円の賠償命令 「怠慢」と認定


 東電の旧経営陣の怠慢により原発事故を発生し、結果として東電がその責任をとって各種の賠償や費用負担をおこなう必要が生じたことを、「東電が損害を被った」として東電の株主が旧経営陣による損害賠償を求めた裁判で、2022年7月13日 東京地裁はほぼ原告の主張を認めた判決をくだした。以下概略を示す。

 

 本判決は形の上では企業体としての東電の利益になることなのだが、かつてないほど原発事業に携わる経営者の安全への配慮をもとめる内容であり、その判断は他の福島第一事故関連の裁判にも関わるものできわめて注目すべきである。

 

 「一度事故が起きれば、社会的、経済的コミュニティーを喪失させ、ひいては国そのものの崩壊にもつながりかねない」。判決はまず原発事故の被害の甚大さを指摘し、電力会社には「万が一にも事故を起こさない」という高度な義務が求められることを指摘した。その上で、争点となった津波の予見可能性と事故の回避可能性を検討した。

 

 政府の研究機関は2002年、マグニチュード8クラスの巨大津波を起こす地震(津波地震)が、福島県沖を含む日本海溝沿いで30年以内に20%程度起きるとした地震予測「長期評価」を公表した。長期評価は日本の専門家の合議により出されたもので、相当の信頼性はあるとした。また東電の子会社は長期評価に基づき、08年に高さ最大15・7メートルの想定津波を試算した。しかしながら旧経営陣はこれを事実上無視し、根拠なく判断を先送りし、なんらの大規模津波事故対策を実施しなかった。判決は福島第1原発ですでに一部に実施していた入り口扉の水密化(電源設備の浸水を防ぐための措置)を全面的に実施していれば2年程度の時間で事故を防止できた可能性があったとした。

 

 判決はさらに旧経営陣の個々の責任を認定し、損害賠償額を算定した。その額が過去にないような巨額になったことは福島第一原発の事故の深刻さ、さらには各地の原発の持つ潜在的な危険性、また電力供給事業として経営するリスクを十分に示しているものともいえる。


福島第一原発事故裁判で最高裁 国の責任を認めない不当判決!


 2022年6月17日、最高裁の第2小法廷は福島第一原発事故に関する民事訴訟について「国の責任は認められない」とする判決を出しました。その論旨は大型の津波が襲ってくる可能性があるという2002年に地震調査研究推進本部地震調査委員会から出された「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(以下「本件長期評価」と呼ぶ)による予測にしたがって(実際は行っていないが)必要な対策を所管大臣が電気事業法第40条にいう規制権限をもとに東電に義務付けたとしても、現実に2011年に福島第一原発を襲ってきた津波はその予測を超える規模だったから事故が生じなかったとは言えない、国の不作為と事故発生との因果関係が認められないから国家賠償法第1条第1項にいう国の賠償責任はない、とするものです。国が先頭にたって原発の普及を進めてきた事実を考えると全く不当なものです。

 

 その不当性は裁判長を含む3名の裁判官の多数意見に対する1名の裁判官の反対意見で的確に指摘されています。この少数意見は判決文の後半に詳細に記述させれているのですが要約すると「2002年に出された本件長期評価(注1)はそれまでに得られている科学的、専門技術的知見を用いた評価で基本的に信頼できるものである。それが出された以後、国は電気事業法にいう規制権限に基づいて各原発事業者に必要な対策をとるように要請すべきところ、それを怠り、事業者(東電)も自主的な対策をとらないまま2011年に東日本大震災に伴う津波の襲来を受けることとなった。実際に福島第一原発を襲った津波が本件長期評価にあるものより規模が大きかったとしても、本件長期評価に基づく規模の防潮堤を建設し、水密型のドアに交換するなどの2重の対策をしておけば非常電源や配電盤が水没して電源喪失から炉心溶融(メルトダウン)に至るような大事故は避けられた可能性が大きい。したがって国の不作為責任は存在し、国家賠償を行う責任がある。」(以上、筆者要約)

 

 「”国を守る”のが最高裁の役目」と言われることがありますが、今回の判決はまさにそれを証明したような国に都合の良い論理で貫かれています。中に1名だけでもまともに反対意見を精緻な文章で表明してくれた裁判官がいることが慰めになります。それが多数意見になるまで各種原発被害者裁判を支援していきましょう!

 

(注1:「三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域は、17世紀以降、マグニチュード8クラスの津波地震として、三陸沖では慶長16年(1611年)の慶長三陸地震及び明治29年(1896年)の明治三陸地震、房総沖では延宝5年(1677年)の延宝房総沖地震が発生している上、海側プレートが陸側プレートに同じような勾配や深さで沈み込んでいること等から、この領域を一つの領域として、震源域は特定できないものの、その領域内のどこでも同様の地震が発生する可能性が高いと評価したもの」以上は判決文による要約)

 

以下に関係資料を示します。

(2022年6月17日 最高裁 第2小法廷 判決本文)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/242/091242_hanrei.pdf

 

「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」

地震調査研究推進本部 地震調査委員会 平成14年7月31日

https://www.jishin.go.jp/main/chousa/kaikou_pdf/sanriku_boso.pdf

 

【電気事業法】(技術基準適合命令)

第四十条 主務大臣は、事業用電気工作物が前条第一項の主務省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは、事業用電気工作物を設置する者に対し、その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し、改造し、若しくは移転し、若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ、又はその使用を制限することができる。

  

【国家賠償法】第1条第1項

国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

                                                                                                                     (連絡会事務局作成)


「核のゴミ」最終処分地の選定プロセスに疑問


 国は1970年台以降長期にわたって大量に排出されている原発からの「核のゴミ」(使用済み核燃料)の処分に困り、2000年に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」を制定し、事業主体NUMOを先頭に国内候補地を探しています。

 2002年以降、全国の自治体に公募をおこないましたが、結局、処分地選定調査の受け入れ自治最終処分法体は現れず、頓挫しました。第2段階として国は2015年に新たな基本方針を閣議決定し、当面(100年程度)の回収可能性を担保しつつ「科学的により適性の高いと考えられる地域を提示する」という方針を打ち出しました。これが2017年に発表された「科学的特性マップ」というもので全国が4色に色分けされています。

 【科学的特性マップ公表サイト】

https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/kagakutekitokuseimap/

 この色分けの基準が「特に好ましくない条件にあてはまるところ以外は選定の候補地になる」という考え方から出発しているところがまずは大問題です。日本列島は欧州などにくらべて新しい地層の上に生成されているもので地盤・岩盤の安定性が全然違います。早い話が欧州などでは数億年前までに形成した安定した岩盤が見つけられ、火山から遠く、地震もほとんどないという土地がかなりあるわけです。それに比べて太平洋プレートとユーラシア・プレートの境界地帯にあって、地震多発国、火山活動の活発な国である日本で10万年以上の安定性が必要といわれる地層処分の適地があるのか、そもそも出発点が疑問です。

 たとえば”「科学的特性マップ」の説明資料”(経済産業省資源エネルギー庁)

https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/kagakutekitokuseimap/maps/setsumei.pdf

では質疑応答において(p.6~7)Q9 「約1万年前以降の火砕流等が分布する範囲がなぜ好ましくない範囲なのですか?」という質問がありますが、10万年の安全・安定を問題にするならむしろ「約1万年前以前に火砕流等が分布する範囲がなぜ好ましくないと言わないのですか?(安全なのですか?)」と質問するべきでしょう。審議会の引いた緩い足切り数値を正当化するための「やらせ質問」が並んでいます。

 つまり国の審議会では「特に悪い条件にある地域以外は候補地になる」という逆転の論理で足切りだけをやっています。その結果、日本全国の30%が濃い緑の色、すなわち「好ましい特性が確認できる可能性が高い」かつ「輸送面から好ましい(海岸から近い)」となっています。つまり有力な候補地になりうるというのですが、果たしてそうなのでしょうか?

 国は科学的特性マップの公開にあわせ選定プロセスとして文献調査、概要調査、精密調査という3段階を示して、「当該都道府県知事又は市町村長の意見に反して、先へ進まない」「20年程度の全調査期間中、放射性廃棄物は一切持ち込まない」という条件を提示して安心感を持たせたうえ、文献調査期間は単年度最大10億円、概要調査段階期間中は単年度最大20億円の電源立地交付金を出すという飴を見せています。2020年10月に文献調査に応募した寿都(すっつ)町は「交付金による地域振興に期待する」(片岡町長)という考えからこの仕組みに惹かれて判断したことが見てとれます。 ただし北海道には「高レベル放射性廃棄物は受け入れがたい」とする道の条例があり、知事は反対しているとのことです。

参考記事:" https://toyokeizai.net/articles/-/381689

      https://www.jiji.com/jc/article?k=2021111600812&g=eco

 

 

 この寿都町、そしてほぼ同時期に応募した神恵内村の立地条件については、地質学者らから「寿都町・神恵内村は地質的特徴から核のゴミの地層処分に不適地です」(2021年10月)という異議申し立てが出ています。

 

https://www.nskk.org/province/no-nuke-project/wpFiles/wp-content/uploads/2021/11/2021_1013_hokkaido-seimei.pdf

https://digital.asahi.com/articles/ASPBF71L1PBFIIPE013.html

 

 実際、この2地点のいずれかに最終処分場が設置されることになれば、将来的に北海道あるいは日本全体が不安の種を抱えることになり、地元だけの問題であるとは言い切れません。

 

 地層処分以外の対処法として日本学術会議は2012年9月11日付けの「高レベル放射性廃棄物の処分について 」という文書で「暫定保管と総量管理の2つを柱に政策枠組みを再構築すること」を提言しています。

https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-k159-1.pdf

 

「高レベル放射性廃棄物の総量またはその増加を厳格に抑え込むことの重要性」は論を待ちませんが、

暫定保管の趣旨は上記文書で次のように説明されています。

 

「現時点で最終処分の形態として想定されている地層処分には、地層の変動やガラス

固化体の劣化など、千年・万年単位にわたる不確定なリスクが存在するため、踏み切

るには課題が多い。このリスクを避けるには、比較的長期にわたる暫定保管という処

分法が有力な選択肢となると考えられる。暫定保管のメリットとして、以下の点を指

摘できる。

 第一に、暫定保管は、遠い将来にわたって1つのシナリオを固定するものではなく、

数十年ないし数百年後の再選択に対して開かれた方式である。最終処分と異なり、回

収可能性があり、再選択が可能であるということが、現時点での社会的合意の可能性

を高めるように作用すると考えられる。

 第二に、暫定保管は将来世代の選択可能性、決定可能性を保証しうる方式であり、

この点で、意思決定に関する世代間の不公正を、完全にではないにせよ減少させうる

方式である。

 第三に、暫定保管は将来における技術進歩による対処の選択肢を広げる可能性を有

する方式である。容器の耐久性の向上や放射性廃棄物の核反応による半減期の短縮技

術(核変換技術)などの技術的進歩があれば、また地震学や地質学の進歩があれば、

そのメリットを処分方式に反映させることができる。

 第四に、施設の立地点からみれば、放射性廃棄物を永遠に受け入れるのではなく、

暫定的期間だけ受容し、その期間の後には、他への搬出という選択が開かれているた

め、最終処分地よりは受け入れやすい。さらに暫定保管は、「地元にとって不都合な

事態が生じた時には、搬出することを要求できる」という承認と組み合わせることが

できるので、暫定的受け入れ可能性を高める要因となる。

 第五に、合意形成の条件として、超長期の安全性確保の確証は不要であり、暫定保

管を行う一定期間についての安全性の確保をすればよい。 」

 

 このような有力な提案を政府が真摯に取り上げて検討しようとせず、小手先の術で最終処分地を見つけて(不適地であれ)「なんとか核のゴミを地下に押し込んで解決したことにする(将来の原発再拡大への布石になる)」という方向に走っているのではないかと危惧するところです。

(2022年6月12日)

 


小型モジュール原子炉(SMR)はけしてバラ色の原発ではない


小型モジュール(原子)炉(SMR=Small Module Reactor)という言葉をご存じだろうか。福島第一原発事故以後、世界的に安全対策のレベルが引き上げられ、別の言葉で言えば新設の原発はとてつもない費用と工期が必要になった。

 

ところがチェルノブイリ事故以後、世界的に原発の建設が下火になっていたために、40年程度の設定寿命を迎える原発が非常に多い。一方で、地球温暖化ガスの発生を抑えるという世界的流れが大きくなってきたため、今まで一番安価であった石炭の火力発電などが使えなくなる。その発電所需要をねらって、世界の原子力産業界が福島事故以後の退潮を何とか盛り返そうとひねり出したのが小型モジュール炉(SMR)である。(注:国際原子力機関(IAEA)は300MWまでを小型、700MWまでを中型としている。)

 

といっても決して新しい技術ではない。1950年代から原子力船や中性子源として利用されてきた。しかし原子力発電所としてはけして活用されたことがない。端的にいうと発電コスト高になるからで、大型の原子炉による大規模発電にはとてもかなわない存在であった。

 

ところが福島事故以後の情勢をふまえた最近の論調ではSMRは「新しい原子炉」として扱われて、世界的に各種のベンチャー企業なども参入して研究開発ブームとなっている。「世界的に売り出されている」といえないのは、いまだ商用の炉が完成されていないからである。

 

では何がSMRの売りなのか?いわく「工場生産できるから建設費が安い」「安全」「多用途・多目的」などである。ただ内容に注意する必要がある。批判的論者からみれば「小型だから建設費が低いのは当たり前だが、多数基を並べて1基の大型炉と同じ発電量を発生しようとすると割高になることは避けられない」「みかけの費用以上に事故発生時の費用など公的資金を大規模に投入して成立するビジネスだ」「安全といってもせいぜいこれまでの炉に比べれば、のレベルであり、他の発電方法などに比べれば危険性は無視できない」「使用済み核燃料の処理に困ることは変わらない」「数十年後の廃炉の費用や負担までカウントされていない」「多用途といってもテロリストに狙われる問題も含め管理やセキュリティーに膨大な費用がかかる」結局「都会に電力を供給するという意味での発電所にはなりえないし、特殊用途も特に必要な場合に限られる」ということになる。

 

その結果、「工場で大量生産が可能」という第一の売り文句が形ばかりになる危険性がある。というのは多数のプロジェクトが走っていることの影響もあり、特定のモデルが有力で多くのユーザーがそのモデルを購入するという形にならない、つまり売り文句ほどの大量生産とそのメリットは実現しないということである。能書き倒れで「SMRは原子力産業の延命や原爆関連技術を維持したい連中の願望に沿ったもの」という批判が生まれる。

 

以上の批判論については下記論説が参考になる。

「小型モジュール式原子炉は、たいていが悪策だ」

マイケル・バーナード氏(TFIE Strategy チーフストラテジスト)

https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20210528.php

 

さらに注意したいのは地球温暖化抑制、脱炭素の流れの中で「原発も運転中は二酸化炭素を排出しない」という論理で巻返しをはかろうとする動きである。これについては再生エネルギーの急速な普及に向け資金を投資すべきというのが常識なのだが、日本政府はいまだに化石燃料にこだわり二酸化炭素回収技術やアンモニア火力などに依存する方針を発表する一方、停止している原発の積極的活用という路線にも固執している。政府資金も投じて高温ガス炉などのSMRの研究開発にも力をいれようとしているからいわば脱炭素便乗で将来はSMR活用という可能性もある。下記論説が日本としてのエネルギー全体を見通した政策の必要性を唱えている。

 

「エネルギー安全保障のための脱炭素-再エネの主力化の加速を」

高橋 洋 都留文科大学 地域社会学科 教授

https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20220308.php

 

                      (連絡会事務局 2022年4月12日掲載)

 


原発はさらに危険な状況を作っている!ロシアのウクライナ侵攻


 2022年2月24日に大規模に始まったロシアのウクライナ侵攻は一か月以上経過した現在も停戦・撤退に至っておらず、ロシアはウクライナの国境沿いに南部、南東部、東部、北東部を支配しています。国連は3月2日に141か国の圧倒的な賛成により(反対5、棄権35)ロシアのウクライナ侵攻を国連憲章第2条第4項への違反であると非難し、即時の無条件完全撤退を要求しています。しかしロシアはこの決議を無視してウクライナ全土に対する攻撃を停止していません。

 この大規模な戦争の中で明らかになってきたことは、原発がこのような戦時に特別な攻撃目標となることです。停止中のチェルノブイリ原発の占領だけでなく、ウクライナ最大のザポリージャ原発への攻撃が伝えられています。たとえ原発への直接の爆撃でなくとも冷却水や運転に必要な電力の不足、またその他の不安定な環境や運転状態により大事故に発展する危険性ががあると指摘されています。

下記のグリンピースの記事によれば次のような原発をめぐる危険性あるいは事故要因が考えられるとのことです。

  https://www.greenpeace.org/japan/nature/story/2022/03/11/56074/

 

1.意図的あるいは誤爆・偶発事故による原発の大爆発を招く危険性

2.国土が戦場になることで核燃料の冷却に必要な電力の供給が不安定になる。

3.大量の使用済み核燃料の保管が危険にさらされる。

4.ウクライナの電力インフラを破壊・制御する目的での占領・支配

5.原発作業員が危険な状態にさらされる。

6.ウクライナの原発は設計寿命を超えているような老朽化原発が多く、福島第一事故後に世界的に進められている新しい安全対策が十分適用されていない原子炉も稼働している。

                              (以上のまとめは一部連絡会事務局による)

以上、現在のように大規模な発電所で集中的に発電し、需要先へ送電するのが基本のシステムになっていて、なおかつ原子力発電所にその電力生産を依存している社会では、このような戦時になったときに、原発の存在による特別な危険性にさらされることが明白になってきました。確かにジュネーブ条約の第56条ではダムや堤防、原子力発電所への攻撃は、それが民間人に大きな危険性を与えるがために禁止しています。今回のロシアの攻撃が国軍による初の原発攻撃であり、ジュネーブ条約違反であることは非難されるべきです。しかし一方日本では、単に平穏時の効率や経済性だけでなく、安全・安心な社会の基本として原発という危険な存在に依存しない社会の構築をめざすべきです。

 

なお、2011年10月から3年間にわたりウクライナ大使を勤めた坂田東一氏は「福島原発事故からの復興にチェルノブイリ原発の事故処理の経験を役立てるよう最大限に協力してくれた」と回想しています。

  https://mainichi.jp/articles/20220328/dde/012/030/010000c

 


2022年3月 日本の原発の現状と問題点  原発再稼働ではなく再生エネルギーを基本とした社会への努力を


  

安倍内閣、菅内閣を通じて、「新規制基準に適合した原発の再稼働を進める」という方針で10年近く進んできたわけだが、現在は約60機の原発のうち実際に稼働しているものが4基(大飯第3、高浜第4、玄海第4、川内第1)、稼働中だが定期点検中とされているものが4基(美浜第3、大飯第4、玄海第3、川内第2)となっている。

 

 福島第一原発事故以後、それだけ新規制基準や地元同意のハードルが高くなっているという側面もあるが、一方で2050年までの脱炭素(カーボンニュートラル、炭素排出量ネットゼロ)をめざす第6次エネルギー基本計画では2030年に原発で20~22%の発電比率を期待するとなっており(発電量で約2000億kWh=200TWh)、この値は直近の年間発電量の約4倍のであるから、可能な限りの再稼働を強めていく計画であると読める。つまり脱原発を選択する世論にくらべて、現政権のめざすエネルギー政策は著しく原発に依存する度合いが高い社会をめざしているというのが問題点の第1。

 

 次に何が再稼働のネックになっているかをみると改修工事の遅れもあるだろうが、(1)原発の使用済み核燃料が敷地内で満杯になりそうなのに持って行き場がない-大きく言えば核のゴミの処分の問題、さらには(2)テロ対策が不十分、(3)2020年12月の大飯原発3,4号機の大阪地裁判決では基準 地震動の設定が十分安全でないという判断がされたこと、また(4)2021年3月の東海第2原発水戸地裁判決では周辺人口の大きな原発での避難計画不備が再稼働不許可の理由とされたこと。それらのすべてと関連して(5)地元の同意が得られない。また世論としては福島第一の廃炉処理が進んでいないこと、汚染水の対策も未完で海洋放出というさらなる汚染が問題であること、さらには現在のウクライナ戦争において原発に攻撃がなされたという現実から今後(2)が重視される方向に進むだろうこと、など、再稼働が不適な理由は多数存在する。

 

 美浜原発、高浜原発をかかえる福井県では原発頼みの財政体質になってしまっていることから立地の市町村レベルでは再稼働期待の動きもあるが、県知事がひところ「使用済み核燃料の搬出先を明確にしなければ再稼働を認めない」という方針を出していた。しかし実際には関電は搬出先をみつけられなかったにもかかわらず、うやむやのまま県知事は再稼働に同意した。原発をめぐっては電力会社幹部と地方自治体職員の間の不適切な金銭の授受が報じられているが、今回も何か不明朗な印象を与える県知事の動きであった。

 

 使用済み核燃料の処理については最終処分場の建設をめぐって政府が「科学的特性マップ」を発表して以来、文献調査に応じた自治体が北海道で2件あり調査が始まった。実際には調査に応じた2自治体では不適とされたゾーンが大きな面積を占めており、その外側でも安全が十分保障されているわけでもない。この応募は交付金目当てすなわち「見かけ上の当面の経済的利益」優先の選択であるように思われる。

 

 一方、2020年12月の大阪地裁の判断では原発では大災害に発展する危険性があるわけで(3)基準地震動については、震源断層面積を経験式に当てはめて出した地震規模が計算式による平均値にすぎないこと、平均値より大きい方向に乖離する可能性自体を検討していないことをもって違法とした。これは樋口英明元福井地裁裁判長が基準地震動の設定が低すぎるという基本問題を指摘して原発再稼働を認めなかったことと同じ趣旨の判断であり、住民の安全を重視した判決といえる。

 

 また(4)東海第2原発の水戸地裁判決では大事故発生時の住民の避難計画を重視したものであり、ある意味で意表をつく判決であるが、原発絶対安全神話の虚構を体験した現在、過酷事故に備えて避難対策を講じておくことは必要でありこの判断は正しい。しかし避難計画がたとえ整備されたとしても、だから原発は安全だとか、過酷事故が起こっても大丈夫といえるものではないことは明らかであろう。自動車を運転する者は万一に備えて自動車保険はかけることは運転するための必要条件であるのだが、だからといって交通事故を起こしたり、事故に巻き込まれたりしても大丈夫というわけではないのと似ている。安全を第1に考えれば不要な自動車運転はしないのが正しい。

 

 世界は今 脱炭素をキーワードに、脱化石エネルギーとともに脱原発に動いている。再生可能エネルギーは生産技術の進歩により急速に安価になった。一方福島第一原発事故により、原発は使用済み核燃料関係の未解決の問題を抱えながら、巨額の費用がかかる安全対策が必要とされるようになり経済的な優位性も失った。歴史上の大きな変動である。しかし現在の日本政府は脱化石エネルギーにも脱原発にも十分意欲的な政策を展開しているようには思われない。これではすでに周回遅れといわれるエネルギー政策でますます世界の流れに遅れてしまうであろう。

 

原発再稼働ではなく再生エネルギーを基本とした社会へ急速に転換する努力をすべきである。

                                                                                        (2022年3月22日 同10月11日一部修正 連絡会事務局)

  


「世界の原子力産業動向と日本への示唆」セミナー聴講報告


「世界の原子力産業動向と日本への示唆」

(World Nuclear Industry Status Report(WNISR)2021 年版発表イベントより

 

 上記Web セミナーが2022 年1 月19 日に政策研究大学院大学 グローバルヘルス・イノベーション政策プログラムと公益財団法人 自然エネルギー財団の共催で開催されました。

 WNISR2021 は原発をめぐる世界の情勢について現時点で一番総合的な報告となっていると思われますので、簡単に内容を紹介します。

 なおWNISR の原文(英語)は

https://www.worldnuclearreport.org/World-Nuclear-Industry-Status-Report-2021-773.html からpdfとして入手できます。

またセミナーの内容は https://www.renewable-ei.org/activities/events/20220119.php

からビデオや関連資料を入手することができます。またWNISR2021 については概要と結論の仮訳を下記から入手できます。

https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/WNISR2021_ES_JP.pdf

 

司会はトーマス・コーベリエル ⽒(自然エネルギー財団理事⻑)

講演者の発言は極めて簡単にまとめますと次のようになります。

 

1.⿊川 清⽒(東京大学・政策研究大学院大学 名誉教授 元東京電力福島第一原発[国会]事故調査委

員会 委員⻑)

 福島第1 事故は規制する側(政府)が規制される側(電力会社)の虜(とりこ)になってしまい、「国

⺠の安全が第1」ではなく「事業者の利益を守るための規制」になってしまった。これはこの件だけの

問題でなく日本の官僚社会の体質から生まれたものである。省庁ごとに縦割りになった社会でキャリア

を積み上げる組織構造になっているため、前例踏襲、同調圧力で組織の利益を守ることが優先されてい

る。企業も規制を自分たちの利益になるようにマネージメントすることを重視している。このような関

係で、技術的知見も企業の方が多いことから事業者主導で規制のルールが作られる。日本はこの仕組み

がそれなりに機能して経済発展を遂げたのでそれが強固に根付いてしまった。

 その体質は事故から10 年たってもほとんど変わっていない。しかし今後は若い人の世代から組織にど

っぷりつかることのない「独立した個人」が増えてくると期待したい。

国会事故調は国会(立法府)の国政調査権を背景に政策を検証する「政府から独立した調査機関」と

して初めて設置され、福島第一事故に関する基本的な問題指摘を多数行ったが、その後国会はこの報告

書をフォローする活動をしていない。国会は党派を超えて独立調査機関を活用すべきである。」

 (なお⿊川⽒の資料はリンク集として下記が提供されました)

https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/Kurokawa_WNISR2021_20220119.pdf

 

2.Mycle Schneider ⽒(エネルギー問題コンサルタント)

近年、世界の原発は発電量、稼働数とも基本的に退潮しており、例外は中国だけであるとした。種々

の変化傾向のデータを示したがどれもが1990 年代をピークとして(ゆるやかな)下降線をたどってい

ること、それを2011 年の福島事故が後押ししたような結果になっている。この傾向は廃炉(停止)にな

る炉数が建設中(稼働開始)の炉数をうわまわる傾向が定着していることから今後もその傾向は変わら

ないとした。稼働の予定が延び延びになっていたり、稼働しているところでも休止期間が⻑かったり、

順調な状態とはいえない。炉の平均使用年数も新設がないため1990 年ごろからコンスタントに加齢し

つつあり、米国では41 年、フランスで37 年となっている。

 

3.鈴⽊達治郎⽒(⻑崎大学 教授 )は概略次のように報告した。

 「福島事故が日本の原発の状況を根本的に揺るがした。原発はもはや一番頼みになる安価な発電部門で

はなくなった。しかし日本政府は『できるだけ原発への依存度を下げる』といいながら一方では『ベー

スロード電源として維持する』という矛盾した政策を打ち出している。一方で、使用済み核燃料の増加

などの未解決の問題が深刻化している。WNISR のような信用できる独立した情報源がないのが日本の

一つの問題である。国際的には稼働中としている日本の原子炉でも多くは⻑期の休止になっているとこ

ろが多く、実態としては設備稼働率は2011 年以降の平均では10%台を低迷している。」

 

4.崎山 比早子⽒(3・11 甲状腺がん子供基金 代表理事)

 政府と自治体の間の連絡ミスで福島第一原発の事故発生時にヨウ素剤の服用がほとんど実施されなか

ったこと、事故後の健康調査は福島県⺠だけに限られていること、発がんのデータで県⺠健康調査のル

ートからはずれたものが統計から漏れていること、予備調査でA1 判定であった人が2 年後には要精密

検査のレベル(B1)になってしまった人が46 名いること、1 回目と2 回目でデータの区分け方法を変

更することで地域差がないようになってしまったこと、最後に津波による死者は福島県では少なかった

のに、人災といえる原発事故の影響で震災関連死が他県にくらべて圧倒的に多いこと、など種々の問題

点を報告された。

 

5.アンソニー・フロガット⽒(エネルギー政策コンサルタント、英国王立国際問題研究所(チャタム・

ハウス)上級研究員)

 世界的な再生エネルギーの発展状況を紹介し、コストも急速に低下して陸上風力と太陽光発電は原発

よりはるかに安くなったこと、その結果EU ではこの10 年間で再生エネルギーと原発の発電シェアが

逆転したこと、等を報告した。加えてトピックとして

(1)SMR(Small Modular Reactors)原子炉についてはコスト的に有望視されないこと、核拡散の

危険性が増大することなどを指摘した。

(2)EU におけるタクソノミー(持続可能な経済活動としての認定)問題で原発を認定する問題で

は、高レベル放射性廃棄物の処理施設を2050 年までに建設することなどいくつかの条件をつけて

「断続的発電をする再エネに安定的なベースロード電源を提供することにより、最終的には原発

は再エネの普及・展開を促進するものであり、再エネの発展を阻害するものではない」という筋書

きで再エネ促進の投資先の一部として認定しようという動きがある。

(3)原発の寿命の延⻑については新増設には時間がかかるので、既存の原子炉が脱炭素を⽀援する

ことができるとして認める、ただし改修と安全性の向上が前提という筋書きになる。

(4)LNG については、もし二酸化炭素の発生量が1KWh あたり270g 以下であり、より汚染の強

い化石燃料を置き換えるものであり、2030 年12 月31 日までに建設許可を入手し、それが置き換

える電力はまだ再エネでは有効に置き換えることができないならば、持続可能なエネルギと認定

される。

 

6.まとめ:マイケル・シュナイダー⽒

「事実に基づく私のまとめは次のようだが、マスコミの報道とのギャップが心配である。

(以下(1) から(9)は下記の4 人の資料のうち46 枚目の要約。事前に他の講演者の資料を

読んで今回の話全体をまとめたものと思われる)

https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/01-04_WNISR2021-Japan-

Launch_20220119.pdf

(1)2020 年に原子力発電は3.11 の余波で限界ギリギリのところまで追い込まれた。

(2)フランスでは原子炉の老化に悩まされ、過去35 年最低のシェアに低下した。

(3)水力を除いた再生可能エネルギー(主として風力、太陽光、バイオマス)は世界レベルで原子

力を越えた。水力単独でほぼ過去30 年の間、原子力をうわ回った発電をしている。

(4)初めて、水力を除いた再生可能エネルギはEU 内で原子力以上の発電をした。また水力を含む

再生可能エネルギー発電はすべての化石燃料による発電を上回った。

(5)原発のネットの発電能力増加量(増設と廃止の決定の差)は2020 年に400 万KW に落ち込み、

2021 年はマイナスになった。一方、再生可能エネルギーは290GW 増加した。エネルギー産業

の新増設のマーケットでは原発は相手にされない。

(6)SMR という小型原子炉はマスコミをにぎわし、公的資金もある程度獲得したが、現在のところ

使用不能であるし、これから10 から15 年間もそうだろう。アルゼンチン、中国、ロシアのパイ

ロットプロジェクトはすべて失望する結果である。

(7)福島の状況は、原発の敷地内外とも、不安定である。健康と福祉にかんする影響は重大である。

政府⽀出(2230 億ドル)およびその他⽀出は(3220 から7580 億ドル)は巨大である。日本の

裁判所は巨大事故の責任から政府と東電要人を免罪したがいくつかの事例では再稼働を承認し

なかった。

(8)原発はCOVID-19 に対しての傷つきやすさを証明した。気候変動に対しても低い復元力しかな

いとされる。この復元力は今後もさらに低下するだろう。

(9)原発分野を贈収賄、通貨偽造や他の偽造、組織犯罪集団の潜入を含めた犯罪的行為にさらすこ

との疑問が湧いている。」

【討論の要約を含めた全体はダウンロードからpdf ファイルをご参照ください】

ダウンロード
「世界の原子力産業動向と日本への示唆」WNISR)2021年版 発表イベントより
2022年1月19日開催、自然エネルギーほか主催のウエブセミナーの聴講内容のまとめ
20220119-webinar-summary.pdf
PDFファイル 300.9 KB

自然エネルギー導入の遅れている日本の進むべき道(意見)


 米国は日本と並んで現在自然エネルギー(再生可能エネルギ Renewable Energy=RE)の発電比率が20%程度とEUの半分のレベルにある。これで2030年に削減率80%(米)、46%(日)、そして2050年に削減率100%(ネットゼロ)をいかにして実現するのか。米国はREの発電単価の低下をてこに投資比率(RPS)の向上や各自治体における先進的な動き、企業の革新的マインドなどを一体として太陽光発電と風力エネルギーを主体としたREの爆発的成長により上記目標の達成を展望している。

 

 それに比べると日本は石炭や原子力への依存の克服が遅く、さらに2030年のREの比率目標が低く、2050年に向けてもCCS(CO2の回収・貯留)付化石燃料エネルギーへの依存を大きく打ち出している。

 

 しかしCCS付き化石エネルギーは米国やEUではすでに技術的・経済的に可能性なしと評価された見込みの薄い技術である。米国でのいくつかの導入例では石油の増産のための注入に使われ、経済的には有利だろうが、実際はほとんどが大気に放出され貯留率は10%程度しかないという評価もされている。また水素やアンモニアによる発電等もその大量生産がグリーンなプロセスでない限り、意味のないものである。さらに日本には貯留に必要なサイトを確保する展望がないとして、CO2を大量に輸出する計画になっているが、これは高濃度核廃棄物の輸出にも似たもので、再考を要する。これらを考えると日本は「現時点においては架空な技術」に依存する計画を立てているわけで、REの大幅な成長を展望しないやり方はますます世界に後れをとる。極端にいうと日本がエネルギー的にガラパゴスになり、「化石エネルギーに依存した工業産品は購入しない」というEU等の脱炭素先進国の政策に遭遇して輸出立国が成り立たなくなるという可能性もある。環境の面からは健全な内需を拡大しないで輸出に依存する発想そのものが再考を要する時代ではあるが、「化石エネルギー、原発依存体質を変換せず、一方で輸出立国に依存する」という政策は自己矛盾をかかえたものと言わざるをえない。むしろ国内の自動車産業などが冷静に状況をみつめて電気自動車への急激な転換の舵を切っている。

 

 日本は海洋国としての地理的条件からすると洋上風力発電に大きな可能性があるわけで、その技術的・経済的進歩を集中的に加速する政策が必要であり、また国際的な技術協力の可能性もある。

 

 このような意味で政府の策定した第6次エネルギー基本計画は抜本的に見直し、修正する必要がある。具体的には、

 

1.2030年のRE(再生可能エネルギー)比率目標を高める。

2.化石エネルギー依存率を低める。CCS技術依存をやめる。

3.それにはREの導入がしやすい送電や電力調整の仕組みをつくる。

4.洋上風力発電の導入に注力する。

5.鉄鋼の生産技術の根本的な変革により高炉から直接還元への移行をはかる。

 その他、各種加工・生産技術・運輸分野における脱炭素化をはかる。

6.蓄電技術の進歩を加速させるとともに、貯熱システム等も条件のよい地域から導入して総合的な省エネをはかる。

7.以上の政策を実施すればRE主体に安全で環境に好ましい電力を供給できる社会に近づくわけであるから、「確率が低い天災等に対して安全が保障できない」という本質的な危険性をもち、使用済み核燃料の処理等で将来の世代への負担をますます増大する原発の運転・開発・新増設は早急に中止する。

                                               (連絡会事務局)


第6次エネルギー基本計画をどう見るか?


2021年10月22日 政府は第6次エネルギー基本計画を閣議決定しました。

 

第6次エネルギー基本計画(PDF形式:821KB)

第6次エネルギー基本計画の概要 ※令和3年11月26日更新(PDF形式:853KB)

2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料) ※令和3年11月26日更新(PDF形式:3,653KB)

 

 今回の第6次エネルギー基本計画では温暖化ガスの排出量削減で2050年度でカーボンニュートラル(森林による吸収、回収+地下貯留などをカウントしてネットゼロ)、2030年度で排出量46%減でさらに改善をめざす、という国際公約と整合するエネルギー政策を構築することに重点がおかれました。その中で脱炭素技術やイノベーションにも力を入れるとともに、安全性(Safety)の確保と安定供給(Energy Security)や環境への適合(Environment), エネルギーのコスト削減(Economy)をめざす(S+3E)としています。これを具体化する方策として基本計画であれこれを述べていますが、実際に2050年、2030年の炭酸ガス排出削減目標値をどうやって実現するかという数字をみると、また諸外国のそれと比較したりすると、実際はどこに力が入っているかがわかるわけです。

 すると見かけの看板と実際の中身の不一致などが多々あり、いろいろな批判が出ています。たとえば自然エネルギー(再生可能エネルギー)の利用推進をめざす自然エネルギー財団のHPでは下記のような指摘をしています。【要約は当連絡会事務局による】

 

★高橋 洋 都留文科大学 教授

https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20210922.php

(1)再生可能エネルギーの2030年比率目標が36-38%で、先進諸外国の目標値に比べると著しく低い。

(2)再生可能エネルギーを優先的に導入するための制度改革が不十分。

(3)2050年に向けて、長期的にも火力発電を維持する方針が明示され、その手段として実績のほとんどないCCS(炭素回収・貯留)を含む脱炭素火力、その燃料ともなる水素・アンモニアへの期待(依存度)が高すぎる。

 

★大野 輝之 自然エネルギー財団 常務理事

https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20210930.php

(0)2050年の電源構成でCCS付き火力による2~3割以上の電力供給を想定している。

(1)しかしCCS付き火力による脱炭素化は過去の政策でEUでは経済的に成立しないとすでに見限っている。

(2)日本ではCCSの利用に適した地理的な条件がない。成功裏に稼働中のCCSは枯渇してきた油田などで生産量を上げるため、回収したCO2を注入するEOR(Enhanced Oil Recovery:原油増進回収)方式で行われているもので、石油増産という副産物があって初めて成立する。

(3)CCS貯留量の不足が現実に見えてきて、二酸化炭素を大量に輸出して外国で処理してもらうことでしのぐかのようなシナリオになっており、まやかしである。

 

★大島 堅一 龍谷大学政策学部 教授

https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20210924.php

(1)第6次エネルギー基本計画の基礎となる「長期エネルギー需給見通し」で、産業部門の活動が過去の延長で過大に想定されている。実際には産業界の生産量は下降気味であり、そのギャップは「徹底的な省エネの推進」で実現するかのような記述になっている。

(2)原子力発電による2030年度の発電総量は20~22%(約2000億KWh)になっているがこれは現在の原発の再稼働の進展状況からいって不可能である。

(3)このように第6次エネルギー基本計画の省エネ・再エネ推進に不熱心、原発に過大な割り当てをするやり方は従来のエネルギー基本計画を引き継いでおり、本来は逆に「排出量削減を実現する立場から産業構造の変革を進める」べきものである。

 

石田 雅也 自然エネルギー財団 シニアマネージャー(ビジネス連携)

https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20210921.php

(1)2030年までの再エネ供給量増大を予測はしているが、どのようにして増やすのかロードマップが示されていない。企業にとっては情報不足である。

(2)発電コストの単純比較では太陽光が一番安くなるとなっているが、政策的に太陽光などの不安定なエネルギーに対して付加的コストを割り当てる方法が用いられる可能性があり結果として大幅に高くなる。

(3)海外では天気予報データなどから太陽光や風力の発電量を予測し、それに合わせて需要をシフトさせる、ITやAIをフル活用する取り組みがなされている。原子力には安全性と放射性廃棄物の問題がつきまとうので欧州では持続可能な投資対象になっていない。日本は旧態依然で原発をベースロード電源として活用する発想から抜け出ていない。世界の趨勢に遅れる。

 

以上、参考までに識者の指摘を紹介しました。

 

さて、原発に焦点をあてて第6次エネルギー基本計画の特徴を当連絡会事務局で整理すると次のようになります。

 

1.「いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ」るというならば地震・津波・火山・テロ・偶発事故・老化など大事故に発展する要素を内在し本質的な危険性をもつ原発の停止を当然最優先すべきであるところ、温存しさらに実現不可能な発電量を2030年度に割り当てている。2050年に向けても「原子力については、国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく。」と積極活用を打ち出している。

2.2030年の原子力による発電比率(20~22%)を実現するには現有の原子炉をすべて再稼働させなくては間に合わないということになり実際上は実現困難である。それを「再稼働タスクフォース」なるものの立ち上げを掲げ、国が主体となって再稼働へまい進することになったことは重大である。 

3.現在でも使用済み核燃料の保管場所はひっ迫しているにもかかわらず、さらに稼働を延長して増やしていくことは、使用済み核燃料の管理および処理という次世代への負の遺産を増やす結果となる。

4.六ケ所村再処理工場の竣工と操業の方針を維持しており、日本の放射線環境の劣化、安全性の低下、国際的なプルトニウム増量への批判などを抱え続けることになる。

5.高濃度放射性廃棄物の最終処分方法として地層処分の方針を変えずに推進するとされているが、「将来に向けて幅広い選択肢を確保し、柔軟な対応を可能とする観点から、使用済燃料の直接処分など代替処分オプションに関する調査・研究を着実に推進する。」と多少の幅を持たせる記述が現れた。

 

以上


「原発処理汚染水を海洋へ放出するな!-代替案「大深度地下貯留」の紹介-」


石油掘削技術に詳しい中山一夫氏(元石油資源開発(株)専務取締役)から2021年11月6日に標記のオンライン講演会がありました。その開催趣旨によりますと

 

「政府は今年4月、福島第1原発から出る処理汚染水について海洋放出する決定を下し、海岸から1キロ先まで海底水路を作り、2023年春から放出しようと準備を進めています。放出されれば、持続的な未来を目指す世界の潮流に反するだけでなく、震災から立ち直ろうと必死で努力している地域の人たちにさらなる苦難を強いることは必至です。

 

そこで私たちは、オンライン講座を開催し、処理汚染水を海洋に放出しない方法を提案することにいたしました。紹介する 「大深度地中貯留」は1000m以上深い地下にある貯留層へ薄めた処理水を圧入するという、石油掘削技術を応用した方法で、海洋放出に比べてはるかに安全な汚染水処理方法です。

 

本当に海洋放出がベストな選択なのか、皆さんに立ち止まって考えていただくと共に、海洋放出ありきで邁進する政府と東電の計画にストップを掛けたいと思います。」

とあります。

 

講演の中で中山氏は

1.ALPS処理汚染水が2021年4月現在125万トンあるがこれを海洋放出するには20年かかる。さらに今後出てくる汚染水を考えるといつまでも貯留タンクは増え続けざるをえない。

2.大深度地中貯留は30万トン貯留試験の実績があり、技術的な信頼性がある。

3.海洋放出ではないので風評被害の懸念は少ない。

と話された。補足説明として

「地中貯留は透水性のない粘土質の地層の間にあるミクロな空孔の多い堆積岩の層に吸水させることによって行なう。堆積岩の層に沿っても遠方には流出していかないため、将来も必要であれば95%は回収できる。地下貯留中も放射線量や温度・圧力など常時モニタリングが可能である。福島第一原発敷地内で掘削ができるので海洋放出に比べれば費用も低廉で、生活圏への流出の危険はない。時間をかせいで放射線量の低減を待つには相応しい方法である」

と説明された。このような代替案が存在するならばそれを無視して海洋放出することのないよう、さらに強く政府に求めたい。

 

追記:上記講演の記録が下記サイトに掲載されました。どなたでも視聴できます。(2021年12月7日)

https://www.youtube.com/watch?v=dVKPU_V8Wls 


核のゴミ「今地層処分をしてはいけない8つの理由」 で早わかり


 原発は使用済み核燃料というやっかいなゴミを排出します。その処分方法はいまだ決まっていない中、全国の原発では使用済み核燃料の置き場に困るという状況すら発生しつつあります。国はこれを再処理し、プルトニウムを取り出しMOX燃料として再利用する一方、残りの高濃度放射性廃棄物(核のゴミ)を地下に埋める(地層処分)することを計画しています。しかしこれは地震大国で活断層いっぱいの日本にとっては危険極まりない方法です。だいたい地震がどこでどのくらいの規模で発生するか、予測はできていません。それなのに地層処分のための「最終処分場」の建設を急いでいます。

 これに対して心ある科学者は危険な計画であると警告しています。「行動する市民科学者の会・北海道」事務局長 小野有五さんは難しい問題をわかりやすく下記の動画で説明してくれています。たったの36分間で早わかり!ぜひご覧ください。

   https://www.youtube.com/watch?v=tG7uq_O-GWQ

 

なお講演の骨格となる8つの理由のタイトルだけ次に示します。

1.「最終処分場」には、全国の原発のゴミも、フクシマの核のゴミも、すべて持ち込ま
れる可能性があります!
2.地上で安全に保管できるので、いま地層処分は不要です。原発敷地からよそに持ち出
し、「地下に埋めて、あとは知らん顔」こそ電力会社の「無責任」です。 

3.NUMOが「説明会」で説明しない不都合な真実・・・いま地層処分したら、危険なヨウ
素129は10数年後にもれ出します!
4.NUMOのマップの誤りは胆振東部地震で証明されました。地表の活断層から遠く離れて
も地震は起き、地上とつながる「人工バリアー」は、地下水の侵入を防げません。 

5.寿都も神恵内も、活断層の上にあって、地層処分にはまったく適さない場所です。
6.世界一、安定した10億年の岩盤からなるフィンランド
  世界一、不安定で、活断層だらけ、地下水だらけの日本
7.海外では地層処分はどんどん進んでいて、日本だけが遅れていると、世界から批判さ
れているのですか? 

8.破綻している核燃料サイクルに使われている、ムダな税金!それを地方にまわせば、
地方はずっと豊かになります! 


大阪地裁(2020年12月4日決定)基準地震動の設定において経験式におけるバラツキの考慮を要求


大阪地裁大飯原発許可取消事件で、原子力規制委員会が基準地震動の設定において震源断層面積と地震動の経験式を適用するにあたり、「経験式のもつバラツキを考慮する必要がある」と地震動審査ガイドで定めてあるにもかかわらず、漫然と経験式による平均値の推算で事足れりとしたことは違法であると判断し、運転差止を命じた。これは樋口元裁判官のいう基準地震動の設定の難しさを基礎に、平均値への上乗せを考慮する必要性を裁判所が認めた重要な決定である。


樋口英明著「私が原発を止めた理由」(旬報社)で指摘されている原発の現実的な危険性


これまで原発の運転差止を認めた判決の中で一番厳しい判断と思われるのは、大飯原発3・4号機に関する福井地裁判決(2014年5月21日)であるように思われる。

この時の裁判長を務めた樋口英明氏は現在は退官されているが、原発再稼働の危険性を広くひろめる必要があるという考えで著書を出版されたり、全国をまわって講演されたりしている。ここでは樋口英明著「私が原発を止めた理由」(旬報社 以下「本書」という)の趣旨を要約する形で日本における原発運転の危険性の指摘を紹介する。

なお 出版元のURLでは以下のような紹介になっている。

   https://www.junposha.com/book/b561325.html

 

 

樋口氏の観点はいろいろ斬新なものがあるが、まず第一に次のような論理を組み立てられたこと。(本書p.4)

 

第1 原発事故のもたらす被害は極めて甚大。

第2 それゆえに原発には高度な安全性が求められる。

第3 地震大国日本において原発に高度の安全性があるということは、原発に高度の耐震性があるということにほかならない。

第4 我が国の原発の耐震性は極めて低い。

第5 よって、原発の運転は許されない。

 

(注1)上記の命題の中で多少気になるのは第3の「原発に高度の耐震性があるということにほかならない」の部分が必要十分条件であるような印象を与えることである。より正確には「原発に高度の耐震性があることが大前提になる」という必要条件としての記述のほうが正しいと思われること。

 

この論理の組み立ては原発推進派の人もなかなか否定しにくい構造になっている。そこで諾否を保留して事実かどうかの科学的検証に持ち込めるのは第4命題になってくるので原発推進派の反論もこの点に集中する。そのため本書では「原発の耐震性」や「実際に発生している地震の強度(加速度)はどのくらいか」に多くの議論がさかれている。

 なお地震の強度(加速度)の単位としてガル(Gal)が使用されることが多い。

(1Gal=1cm/s2)

 

本書の展開としてはまず

命題第1について、福島第一原発事故の例をひき想像すべき恐ろしさを記述している。

(1)2号機はベントできずに格納容器が全体として大爆発を起こす危険があり、吉田所長もそういう事態を想像して「東日本壊滅」という言葉が頭をよぎったとのことである。幸い格納容器に”欠陥”があって漏れ発生のような小爆発で済んだこと。

(2)4号機については改修工事の遅れで燃料プールの隣に通常は存在しない大量の水が張られていて(それも本来ならすでに水を抜かれてしまう予定だったのが、工事の遅れで事故当日まで存在したこと)、さらに原因不明だが仕切りがはずれて隣の燃料プールに流れ込んで当座をしのぐことができ、また適当な規模の小爆発が起きたのでキリンと呼ばれる消防庁の注水車から水を補給することができた。これらは幸運の連鎖に過ぎない。ここの大量の裸の核燃料が爆発すれば2号機の爆発にも近い大量の放射性物質を首都圏まで飛散させたことが推定されること。

(3)また現地の対策本部が置かれた免震重要棟であるが、これは2007年に中越沖地震が柏崎刈羽原発を襲った後に新潟県の泉田知事が強く要請して設置された設備であり、その後福島第一にも設置されたという経緯がある。もし中越地震や泉田知事の要請がなかったら事故対策本部すら設置することができず手の施しようがないという事態になっていたこと。

(4)爆発時に多くは西風が吹いていて大部分の放射性物質が太平洋の方向に流れたこと。

 これらの事実を考慮すると福島第一原発が「あの程度」で終わったことは大変幸運だったとも言えるもので、あの原発事故は最悪4000万人が避難しなくてはいけないような事故にも発展しえたともいえるという論調である。

 

命題第2から第4については、一般に事故発生した時の被害が甚大なものは、例えば新幹線が踏切をなくして安全をはかっているように、事故の発生確率を極めて低くなるような対策を施している。ところが原発についていえば、原発を襲ってくる地震動の予測が極めて甘く、想定した地震動(基準地震動)より大きな地震が日本で多数発生している。これがわかってきたのは2000年ごろに地震観測網が整備された以後のことだが、これまで原発の設計基準になる基準地震動がじりじりと引き上げられ、原発には補強工事がなされたことになっている。しかし多くの原発の基準地震動はいまだに1000ガル以下であり、1000から2000ガルの多数観測されている地震動に対応していない。そしてこれまで観測された地震動には2515ガル(2004年新潟県中越地震)、2933ガル(2011年東北地方太平洋沖地震)、4022ガル(2008年岩手・宮城内陸地震)などのはるかに高い値もある。それに対して原発推進側は「原発は岩盤の上にのっているから大きな揺れは来ない」とか都合の良い理屈を言っているが、実際に同一の地震での岩盤と地表の地震動を比較してもどちらが大きいか決まっていない。その理屈は成り立たない。ハウスメーカーは3400から5100ガルというより高い値を想定して個人住宅を製作販売しているという時代に、原発がまったく問題にならない低い水準(数百ガル)で再稼働を申請し、規制委員会もそれを認めている現状は日本の存亡の危機である。(命題第5)

 

 樋口元裁判長の主張はこのように危機感を持たせるに十分なものでありますが、終盤ではなぜ多くの裁判長が原発の運転差止を認めないのかなどの実情についても語っています。大きな字で読みやすいこともあり、ぜひ本書を一読されるようお勧めします。

(連絡会事務局)

 


東海第二原発 水戸地裁判決(2021年3月18日)の意味を考える


 水戸地裁判決では「当該原発から30㎞圏内の住民(94万人在住)に対して必要な実現可能な避難計画の策定と実行体制が整えられていない」として運転差し止めを認めた。

 2011年の福島第一原発の事故以降、日本政府は原発の「絶対安全神話」から脱却する方法としてIAEA(国際原子力機構)の提唱する深層防護の考え方に転換しつつあるようだ。原発事故の対策としての深層防護は左図(項末の原子力規制委員会の田中俊一前委員長の資料(5)参照)のような図式とされ第1層から第4層までは原子力規制委員会が担当するが、第5層(住民避難計画等)は内閣府の担当とされている。 

 この深層防護の図式に置いて、それぞれのレベルは他のレベルとは独立に有効性が確保されていなくてはならないとされる。水戸地裁の差し止め判決は今回初めて第5層(避難
計画等の策定と実施体制の確保等による被害の軽減)の不備を判断したものであり、その判断は30㎞圏内に100万人近い住民を抱える首都圏の原発の大きな問題を直視したものであって評価できる。

しかし深層防護全体をみると、第1層から第4層の防護レベルについても原告側は

・地震対策:基準地震動の策定および施設の耐震性
・津波対策:基準津波の策定および津波漂流物の想定
・火山対策:気中降下火砕物対策
・原発内部の火災対策:難燃性ケーブル採用の必要性
・重大事故対策の有効性評価:トラブルが重なるような確率の低い事象の考慮

などについて原子力規制委員会による新規制基準適合判断ないし被告の基準適合評価は不合理である、と争っていた。しかし水戸地裁は、いずれも「原子力規制委員会の適合性判断の過程に看過できない誤認ないし過誤、欠落があるとは認められない」あるいは「原告らの主張には理由がない」等の判断により原告側の主張を退けている。

 その背景には”現在の法体系における安全性の考え方として「絶対的安全性」というものは達成不可能であるため「相対的安全性」を要求するしかなく、その具体的水準の判断は原子力規制委員会に専門的技術的裁量として委ねたものといえる”という水戸地裁の判断がある。(判決p.43, p.252参照)

 これらに注目すれば原発差し止め裁判の従来の主要争点について水戸地裁は不十分ないし否定的な判断を示していると言わざるをえないのだが、避難計画の不備を判断したことと合わせて、いくつかの妥当な認識も示している。第一には原告団のまとめによれば争いのない事実(前提事実)として次の趣旨を認めていることである。

1 原発の運転は放射性物質を多量に発生させる。過酷事故が発生した場合、周辺住民の生命、身体に深刻な被害を与える可能性を本質的に内在している。
2 原発の事故は、対策が一つでも失敗すれば、最悪の場合には破滅的事故につながる。他の科学技術の利用に伴う事故とは質的に異なる。
3.自然災害は、最新の科学的知見によっても、いつどのような規模で発生するかは予測困難。事実、福島第一原発事故の前でも、専門家の意見を尊重して規制が行われていたにもかかわらず福島第一原発事故が発生した。

 このような認識を前提として被告側の主張を精査したことにより、東海第2原発が全体として深層防護の体制を満たしていないとする判決につながったものと思われる。

 さらに次の2点が深層防護の各論以前の判断として示されたことは重要である。
1.生命・身体に係る人格権が違法に侵害される具体的危険がある場合には、人格権にもとづく原発運転差し止め請求の権利を認めたこと。(判決p.253)
 【人格権とは「人の生命・身体・自由・名誉・氏名・肖像・貞操・信用など、権利者から分離することのできない利益で、私人の権利に属するとされるもの」(weblio)とされる。】
2.その場合、原則論としては原告側が人格権侵害の具体的危険性の存在を主張・立証すべきであるが、原発の安全対策についての科学的・専門技術的知見及び資料は被告側(原発運営企業)が保有していること、発電用原子炉は潜在的に周辺住民の生命、身体等に深刻な被害を与える危険性があることから、深層防護の第1から第4のレベルについては被告が安全性の主張、立証を尽くさない限り、当該原発の安全性に欠けるところがあり、人格権の侵害が事実上推定されるとしたこと。(判決p.261)

 以上のように、今回の水戸地裁判決は肯定的な面と不十分な面を合わせ持っているといえるが、深層防護の考え方で詳しく安全性を検討していること、その結果として第5層の不備を理由に運転差し止めを命令したことは高く評価するべきであり、高裁においてこの判決を確定していくことが重要と思われる。

参考情報
(1)東海第2原発差止訴訟団HP
http://www.t2hairo.net/
(2)2021年3月18日 水戸地裁判決要旨
http://www.t2hairo.net/hanketsu/t2hanketsuyoushi.pdf
(3)同上判決本文(原告目録と代理人リスト略、テキスト検索可能、小容量7MB)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/255/090255_hanrei.pdf
(4)判決文の構成
http://www.t2hairo.net/hanketsu/t2hanketsubunkousei.pdf
(5)田中俊一:原子力規制委員会の取り組み(平成28年3月22日)
https://www.nsr.go.jp/data/000145528.pdf
(6)実用発電用原子炉に係る 新規制基準について -概要- 原子力規制委員会
https://www.nsr.go.jp/data/000070101.pdf
(7)IAEA安全基準シリーズ(英文原文と翻訳のリンク集) 原子力規制庁
https://www.nsr.go.jp/activity/kokusai/honyaku_01.html


原発運転差し止めに関する裁判所の判決・決定の現状


1. はじめに

 2011年3月に発生した福島第一原発事故をめぐって、法的責任の所在や損害賠償などをめぐって多数の訴訟(刑事・民事)が発生しました。ここではその一部である原発の再稼働・運転阻止をめぐる裁判や仮処分の状況と問題点を整理します。

 原発の建設・運転については付近住民から安全性の不安等を理由に「設置許可取り消し請求」の訴訟が1970年代から起こされていますが、上級審ではすべて敗訴してきました。しかし福島第一で実際に世界最悪レベルの事故を発生し、その不安が現実のものとなった以後、運転差し止め・再稼働阻止をめぐってより多くの訴訟が起こされています。

 当連絡会としては会設立10周年を迎えた今、脱原発を目指す活動を強化していく方針ですが、本年3月18日に東海第2原発という近場の原発の運転差し止め訴訟が水戸地裁で「避難計画の不備」を理由に勝利しました。脱原発の活動の第1歩として、東海第2原発運転差し止め裁判の控訴審での原告団支援に取り組む予定です。本資料は原発運転差し止め裁判の置かれている状況を全体的に理解し今後の活動を考えるための参考資料として作成しました。

 参考情報: ・原発訴訟-Wikipedia ・海渡雄一「原発訴訟」(岩波新書 2011年10月刊行)

  ・脱原発弁護団全国連絡会 全国原発訴訟一覧 http://www.datsugenpatsu.org/bengodan/list/

  ・

2.原発訴訟の事由と裁判所の判断

 「原発運転差し止め」裁判というのは行政の決定に異を唱えて司法の判断に訴えることですが、残念ながら司法がきちんと科学的・論理的に判断する頻度は高くありません。伝統的に「行政の手続きにおける見逃しがたい誤認などがない限りは行政の決定を容認する」という姿勢にあります。近年はとくに「社会通念上容認できる」という表現で、原告側が訴える危険性を否定できなくても、その確率は低いのだから、異をはさまないという行政追随の姿勢が目立ちます。また、司法も人間界のなせるわざであり、人事をにぎっている最高裁が原発運転差し止めに非常に慎重な姿勢を貫いている状況下では、それと異なった判断をすることの困難さがあるようです。過去に話題になるような立派な判決を下した裁判長は定年間近の方が非常に多いという現実になっています。

 したがって個々の裁判結果を並べても得るものは少ないので、ここでは、(1)裁判所がどのような論理を立てているか(特に最高裁)、(2)行政追随判決でない立派な判決ではどのような判断がなされているかの2点に絞って整理してみます。

 

(1)裁判所の論理

・「行政の裁量を尊重」第1次的には行政判断を尊重する

  何か言うとすれば「見逃すことのできない瑕疵」の名のもとの判断となる。

・専門家の判断を尊重

・立証責任:初期は原告側に立証責任があるとした。

・裁判の対象を「基本設計の安全性」に限定する。

 

1992年10月29日 最高裁伊方裁判判決(裁判は敗訴だが判決理由の中の下記記述が後に影響)

・国の安全審査の趣旨「深刻な災害が万が一にも起こらないようにするため」

・専門家の判断尊重とそれに基づく内閣総理大臣の合理的判断に委ねる

「原子炉設置許可は多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要」

・立証責任 「本来原告が負うべきもの。しかし当該原子炉施設の安全審査資料をすべて被告行政庁の側が保持していることを考えると、行政庁の側が判断に不合理な点がないなどの立証する必要があり、それがない場合は判断に不合理な点があると事実上推認される」

 

(2)行政追随でない判決・決定の例

 

2003年1月27日 もんじゅ控訴審判決 (名古屋高裁金沢支部:川崎和夫裁判長)

「原子炉設置許可処分は無効」「安全審査の看過しがたい過誤と欠落」

① ナトリウムによる腐食 ②蒸気発生器破損の可能性 ③炉心崩壊事故をめぐる判断の過誤

 

2006年3月24日 志賀原発2号炉運転差し止め判決 (金沢地裁:井戸謙一裁判長)

旧指針を上回る地震が複数観測された⇒「想定した基準地震動の最大速度振幅が過少」

 

2014年5月21日 大飯原発3・4号機運転差し止め判決 (福井地裁判決 樋口英明裁判長)

  判決要旨:http://www.news-pj.net/diary/1001 (かなり詳しい)

  全文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/237/084237_hanrei.pdf

 (判決要旨の中のいくつかのポイント)

1. 憲法13条、25条にいう人格権にもとづいて原発の運転差し止め要請ができる。

2. 原発に求められる安全性⇒具体的危険性が万が一でもあれば差し止めが認められる。

3. 原発の特性として冷やす・閉じ込める能力が求められる。

4. 想定する地震動が低すぎるし、想定した振動でも安全とはいえない。⇒日本のような地震国では基準地震動以上の地震がないとはいえず、具体的な危険性が認められる。

5. 電力供給の安定性やコストより人格が優位。事故で豊かな国土が失われることが国富の喪失。原発事故による放射能汚染こそ最大の環境汚染。

 

2016年3月9日 高浜原発3・4号機運転差し止め決定 (大津地裁:山本善彦裁判長)

「安全性が確保されていることについて(関電側は)説明を尽くしていない」

 

2020年1月17日 伊方原発3号機運転差し止め決定 (広島高裁 森一岳裁判長)

「四国電は十分な調査をせず、原子力規制委員会も稼働は問題ないと判断した」と指摘。阿蘇山についても「一定程度の噴火を想定すべきだ」として、その場合でも火山灰などの量は四国電の想定の約3~5倍に上ると判断し「四国電の想定は過小だ」と結論付けた。【この決定は2021年3月18日に広島高裁の異議審で取り消された】

 

2020年12月4日 大飯原発3・4号機 設置許可取り消し(大阪地裁判決:森鍵一裁判長)

関電が算出した基準地震動の評価は過去の地震規模の平均値を用いていたが、森鍵裁判長は「平均より大きい方向に乖離(かいり)する可能性を考慮していない」と指摘。関電の算出内容を容認した原子力規制委の判断について「地震規模の数値を上乗せする必要があるかどうか検討していない。看過し難い過誤、欠落がある」として審査が不十分だったとした。

 

2021年3月18日 東海第2原発運転差し止め(水戸地裁判決)避難計画の不備

 

(3)原発運転差し止め裁判の判決・決定の現状

 2011年の福島第一事故以降、その反省にたって原発設置許可の「新規制基準」が2016年2月に策定されています。しかしこれにに基づく審査を通過した原発についても、数少ないながらも運転差し止めを命じる判決や決定が出るようになっています。その論理は1992年10月29日 最高裁伊方裁判判決にある裁判の趣旨「深刻な災害が万が一にも起こらないようにする」を生かして、現実に想定している基準地震動以上の振動が原発設置地点でも観測されているなどを根拠に「災害の想定が不十分である」とするような判決が多いといえます。今後、福島第一事故での原因究明(津波到達以前の原発の損傷の有無)や活断層の調査の進展、南海トラフ地震など巨大地震、火山の大噴火等の危険性の予測の進展により「深刻な災害が万が一にも起こらないようにする」の立場から原発の運転について厳しい判断が出ていく可能性もあります。

 それに比べると 東海第2原発の運転差し止め判決(水戸地裁 2021年3月18日)はIAEAの採用する深層防護という考え方から、たとえ深刻な事故が発生したとしても住民が安全に避難できることを必要な防護の一つのレベルとみなして、それの不備を理由に差し止めたもので、異色の判決と言えます。ただし都会に近いところに設置されている原発については現実的な問題でもあります。東海第2に限らず福井県に集中的に立地している関電の原発の場合も、京都・大阪に近いという問題も指摘されています。

(連絡会事務局 2021年7月29日作成)

 


埼玉県議会が原発再稼働推進の意見書を可決!抗議しよう


埼玉県議会は2017年(平成29年)12月22日 自民党議員の提案により突如下記の意見書を採択した。

 

出典:埼玉県議会Webページ  http://www.pref.saitama.lg.jp/e1601/gikai-gaiyou/h2912-5.html#a5

世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた原子力発電所の再稼働を求める意見書

エネルギー政策の基本は、安全性を前提とした上で、安定供給を第一とし、次いで経済効率性の向上と環境への適合である。
そのためには、優れた安定供給性と効率性を有し、運転時に温室効果ガスの排出を伴わない原子力発電所の稼働が欠かせない。
よって、国においては、立地自治体等関係者はもとより国民の理解と協力を得られるよう前面に立ち、下記の措置を講じつつ、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた原子力発電所の再稼働を進めるよう強く要望する。

1 将来の世代に負担を先送りしないよう高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた取組を強化すること。
2 立地自治体、防災関係機関等との連携を強化し、避難のための道路、港湾等のインフラの整備や避難行動要支援者等に十分配慮した避難計画の策定などを継続的に支援すること。
3 電源立地地域対策の趣旨に基づき、新たな産業・雇用創出を含む立地自治体の実態に即した地域支援を進めること。

以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。

平成29年12月22日

埼玉県議会議長   小林哲也

衆議院議長
参議院議長
内閣総理大臣            様
経済産業大臣
原子力防災担当大臣

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福島第1の事故により原発の事故発生がいかに地域住民を苦しめるかを目の当たりにし、現在その後処理すら進んでいないのに原発再稼働の推進をうたうとは信じがたい。埼玉県としても福島県からの避難民を最大時1000名以上受け入れて、原発事故の被災者とともに歩んだ歴史があるにもかかわらずである。原発の立地県でもない埼玉県が全国の都道府県議会の先頭を切って、再度立地地域の住民を原発の危険性にさらす危険性のあるこのような意見書を採択するとは許しがたい。当然抗議行動が拡がっており、当連絡会もその抗議行動に加わった。原発が福島事故により長期に運転停止に追い込まれているのに「優れた安定供給性」をうたうとは失笑ものではないだろうか。


広島高裁 伊方原発運転差し止めの決定!(2017年12月13日)


これまで地裁レベルでは住民による原発運転差し止めを認める決定がでていましたが、初めて高裁において仮処分決定がだされました。決定の理由としては火山噴火による安全性が十分証明されていないと判断したうえで規制委の安全基準をクリアーしていないとしました。

決定の要旨は次のように報道されています。(毎日新聞電子版 2017年12月13日)

https://mainichi.jp/articles/20171214/k00/00m/040/088000c

そこでは結論として次のように記述されています。

 「火山の影響による危険性について伊方原発が新規制基準に適合するとした規制委の判断は不合理で、申立人らの生命、身体に具体的危険があることが事実上推定されるから、申し立ては立証されたといえる。

 伊方原発は現在稼働中であるから、差し止めの必要性も認められる。

 本件は仮処分であり、現在係争中の本訴訟で広島地裁が異なる判断をする可能性を考慮し、運転停止期間は18年9月30日までとする。」

 また同日、日弁連(日本弁護士連合会)は次のような会長声明を出しました。

https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2017/171213.html

 


原発大国と言われたフランスが急速に自然エネルギーに転換中


電力の75%を原子力発電が占めるということで世界で最も原発に傾いた国として知られるフランスが、今 急速に自然エネルギーに転換しつつあります。

フランスが2015年7月22日に制定した「エネルギー転換法(Energy Transition for Green Growth Act)[エネルギー移行法とも呼ばれている]」では、フランスを低炭素国家に変えていくための内容が数多く規定されています。とりわけ大きく報道されたのが、原子力発電割合の大幅削減です。2025年(その後2030~2035年に延期)までに50%にまで引き下げることを決定しました。

 

http://www.renewable-ei.org/column/column_20171207.php

 

フランスは伝統的に急進的な政策もとることのある国ですが、このエネルギー転換法の内容はまさにそれです。

原発の削減以外にも目標として

☆温室効果ガス排出量 2030年までに40%削減、2050年までに75%削減(1990年比)

☆自然エネルギーの比率 2030年までに最終エネルギー消費量の32%(2016年:16%)

・発電電力量の40%(2016年:17%)

・熱消費量の38%(2016年:21%)

・運輸燃料消費量の15%(2016年:9%)

☆最終エネルギー消費量 2030年までに20%削減、2050年までに50%削減(2012年比)

 

☆石炭火力発電 2022年までに終了(2017年6月:300万キロワット運転中)

など「本当?」というような数字が並んでいます。

 

日本が既得権や目先のコストにこだわって原発や石炭火力など旧来の発電方法に固執している間に、世界は大きく変わっているようです。


福島原発事故で国の責任を認め、県外にも賠償命令の判決 福島地裁 2017年10月10日


「東京電力福島第一原発事故の被災者約3800人が国と東電に慰謝料や居住地の放射線量低減(原状回復)などを求めた生業(なりわい)訴訟の判決で、福島地裁の金沢秀樹裁判長は10日、国と東電の責任を認定し、原告約2900人に総額約5億円を支払うよう命じた。津波を予見できたにもかかわらず対策を怠ったと判断し、国の指針に基づいた東電の慰謝料を上回る賠償を認めた。」(以上「福島民報」による。下記参照)

また判決骨子によると、国の責任に関しては15.7mの津波を予見可能であったとして、また東電の非常用電源設備の不備を認めて安全性の確保を命じれば全交流電源喪失による本件事故は回避可能であったとして、津波対策義務に関する規制権限の不行使は著しく合理性を欠いていたと判断しています。

 

福島民報 2017年10月11日

http://www.minpo.jp/news/detail/2017101145799

判決骨子

http://www.nariwaisoshou.jp/archives/001/201710/hanketu_k.pdf

判決要旨

http://www.nariwaisoshou.jp/archives/001/201710/hanketu_y.pdf

  


もんじゅ廃炉へ 政府、年内に結論 核燃サイクルは維持


《東京新聞2016年9月22日 朝刊》

東京新聞の報道によると政府はようやく高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉に向けて、舵をきったようです。遅すぎたとはいえ、ようやく脱原発への一歩を踏み出す状況になったことは歓迎すべきです。ただし各種の思惑があり、これまで核燃サイクルの中核の設備とされてきた「もんじゅ」を放棄しながらも核燃サイクルは維持するという一見矛盾した方針を維持しています。置き場のない高濃度の核汚染物質を生み出す再処理も含め、この部分についても再考し、早期に中止すべきです。

 http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201609/CK2016092202000156.html


大津地裁 関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止め仮処分を決定 (2016年3月9日)


高浜原発3、4号再び差し止め 大津地裁が仮処分決定

福井新聞(2016年3月9日午後3時40分)

 

「関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを求めて滋賀県の住民が申し立てた仮処分について、大津地裁(山本善彦裁判長)は9日、差し止めを命じる決定をした。仮処分は即時効力があるため、関電は不服申し立て手続きなどで決定を覆さない限り、2基を法的に運転できない状態となった。営業運転中の3号機も即時、停止の手続きに入る必要がある。」

 

http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/npp_restart/91105.html

 

決定理由要旨では「福島第一原子力発電所事故を踏まえた過酷事故対策についての設計思想や、外部電源に依拠する緊急時の対応方法に関する問題点、耐震性能決定における基準地震動策定に関する問題点について危惧すべき点があり、津波対策や避難計画についても疑問が残るなど、債権者らの人格権が侵害されるおそれが高いにもかかわらず、その安全性が確保されていることについて、債務者は主張および疎明を尽くしていない。」とされています。なお決定理由要旨は下記から見られます。

 

http://www.fukuishimbun.co.jp/jog/wp-content/uploads/2016/03/6693ab9b0a7c69cd88ea0eb8ff0196af.pdf


IAEA最終報告書が国と東電を批判した意味は大きい


2015年6月12日付東京新聞はIAEAの福島事故報告書の内容をまとめるとともに、東電の経営陣の刑事責任判断などへの少なからぬ影響が出るものと予測しています。

ダウンロード
IAEA福島事故報告書の核心
東京新聞2015年6月12日朝刊3面の記事の紹介
20150612-03-IAEAx0.56.jpg
JPEGファイル 314.0 KB

IAEAが日本の津波対策等を批判(2015年5月)!


 今まで日本政府や東電の対応を擁護していたと言えそうなIAEA(国際原子力機関)が福島第一の事故に関する最終報告書で日本政府や東電の津波対策等を厳しく批判していることが判明しました。(東京新聞2015年5月25日版より)


福井地裁が高浜原発3・4号機の運転差し止め仮処分を決定!


 2015年4月15日 福井地方裁判所は下記のような決定をくだしました。

決定

 

    1  高浜発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない。

 

    2  申し立て費用は債務者の負担とする

 

決定要旨は下記にあります。

http://adieunpp.com/karisasitome/150414decabstract.pdf

 

その中で福井地裁は次のように指摘しています。

1.基準地震動とされる700ガルという基準の意味と根拠が不明確。

2.基準地震動とされる700ガル以下の地震でも甚大な損傷が生じる可能性を否定できない。本来の多重防護がなされていない。

3.高浜原発に基準地震動を越える地震が到達しうることはこれまで国内の原発に5回にわたり基準地震動を越える地震が到達していることからみて明らか。

4.使用済み核燃料を保護する堅固な施設によって封じ込められていない。

5.原子力規制委員会による新基準は緩やかにすぎ、これを満たしたから安全とはいえない。

6.本原発の事故により申し立て住民は取り返しのつかない損害を被る危険性があるので保全の必要性がある。

 

なお詳しくは下記をご覧ください

http://adieunpp.com/karisasitome.html


学術会議が「核のごみ」対策明確化が原発再稼働の条件であるという提言


2015年2月15日付の東京新聞の報道によれば日本学術会議は核のごみの対策を明確化することなしに原発再稼働はするべきでないという趣旨の提言を準備したとのことである。


日本学術会議の政策提言案ポイント


・政府と電力会社が「核のごみ」対策を明確化することが原発再稼働の条件

・国民の合意形成のため、地上の乾式貯蔵施設で原則50年は「暫定保管」。保管開始後、一世代を意味する30年をめどに処分地決定

・暫定保管施設は各電力会社が最低1カ所ずつ確保。負担の公平性から原発立地以外に建設

・市民も参加して議論を深める「核のごみ問題国民会議」を設置

・放射性廃棄物の抑制や上限を設定する「総量管理」を議論


民主党の閣議決定できなかった「革新的エネルギー・環境戦略」


2012年12月 民主党は歴史的大敗を喫して自民党安倍政権に移行しました。しかし安倍政権は「できる限り依存度を低減する」として原発ゼロ政策の見直しを志向し、不十分な脱原発路線しか打ち出せなかった民主党路線をさらに後退させようとしています。

 

民主党のエネルギー戦略の結論であった「革新的エネルギー・環境戦略 」(2012年9月14日 エネルギー環境会議で決定。しかし閣議決定では参考資料としかできなかった)と流産した「グリーン政策大綱」を一応"最低限の歯止め政策"として思い起こしてみましょう。

 

革新的エネルギー・環境戦略

http://www.enecho.meti.go.jp/policy/cogeneration/2-2.pdf

「原発に依存しない社会を1日も早い実現」「グリー ンエネルギー革命 の実現 」「エネルギー安定供給」の3本柱をかかげるが、個々の政策にはあいまいさが散見される。

 

グリーン政策大綱(骨子)。骨子で終わった模様だが様々な具体的課題は参考になりそう。

http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/npu/policy09/pdf/20121127/shiryo4-1.pdf


私たちの基本的な視点


福島第1原発の事故でわかったことは、平和利用とされてきたとは言え、原子力発電のシステムはけして安全なものではなく、特に地震大国日本においては脆弱な存在であり、近隣地域や場合によっては国土全体に重大な放射線汚染を与え、日本の存立そのものを危うくするものであるということです。

 

さらにたとえ事故が起こらなくても、原子力発電所の維持管理、さらには使用済み核燃料の保管や処理においても放射線被曝がついてまわること、また青森県の」六ヶ所村で建設中の核燃料再処理工場が稼動すればそこから放出される放射性物質は原子力発電所とは比べ物にならない環境汚染を起こすことが明らかになっています。

 

福島県の濃厚汚染地帯は数十年百年単位で居住が不能な地域となり、地域社会が根底的に破壊されました。このような大規模な放射性物質の汚染や管理の危険性は、原爆や原爆実験とならび原子力発電がはじまったこの50~60年に初めて発生した人間の仕業です。そして何も利益を受けていない将来の子孫たちにも土壌汚染や生体の変異そして使用済み核燃料の管理という負の遺産を残しています。

 

私たちの住んできた地球環境を放射能で汚染させてしまったことを深刻に反省し、人間がつくった原爆や原発を使用停止し廃棄することにより、私たちの子どもや子孫により安全で安心して生活できる環境を残していこうではありませんか。


「地域から取り組もう 自然エネルギーの活用を」2013年4月13日講演会のご案内


ダウンロード
「地域から取り組もう 自然エネルギーの活用を」2013年4月13日講演会のご案内
15時より17時半まで三郷市文化会館小ホールにて
20130413energy-event-800.jpg
JPEGファイル 118.1 KB

<<2012年12月衆議院選挙での各政党の原発政策>>


なかなか適当な比較サイトが見当たりませんが、個人の整理ではたとえば下記のもの

東電の法的整理、電力自由化、そして原発ゼロの現実性--各党の原発政策を徹底比較する

 

なお各政党の政策集は下記サイトに整理されています。

http://matome.naver.jp/odai/2135321398034940301

 

 


参考資料


原発は本当に安いのか?

実は誰も分かっていない原発のコスト

大島堅一立命館大学教授に聞く

http://www.nikkeibp.co.jp/article/news/20110609/273243/

脱原発にかかわる話題の中からいつくかをご紹介いたします。

ドイツが脱原発を決めた本当の理由
環境NGO「グリーンピース「グリーンピース」トーマス・ブリュアー気候変動エネルギー部門長に聞く
http://www.nikkeibp.co.jp/article/reb/20111108/289865/

 倫理委員会は「原発の賛否は別にして、原発はリスクの高い技術。一方の再生可能エネルギーはリスクが低い。ならば原発は廃止すべきだ」と政府に勧告したのです。

ドイツ、シェーナウ電力会社発行の小冊子『原子力に反対する100個の充分な理由』

(和訳 35ページの小冊子)http://100-gute-gruende.de/pdf/g100rs_jp.pdf

終わらない悪夢-放射性廃棄物はどこへ

その1 http://www.youtube.com/watch?v=SteP6jHO1x0

その2 |  その3 |  その4 |  その5 |  その6 |  その7

地球温暖化対策などを背景に、原子力発電所の建設が世界各地で進むなか、"核のゴミ"といわれる放射性廃棄物の処理は、どれほど進展してきたのだろうか。フランスの取材ク?ルーが科学者らとともに、フランス、アメリカ、ロシアの原発や再処理施設を訪問。核廃棄物の行方や人体への影響など、世界の核のゴミを巡る現実を明らかにしていく。 解説者 : 室山哲也

~2009年フランス、Arte France/Bonne・Pioche制作~

2011年5月17日(火)0:00放送
2009年フランス、Arte France/Bonne・Pioche制作

「チェルノブイリ 終わりなき人体汚染」 NHKスペシャル 1996年4月26日放送
     (1) 14m38s 子供たちへの影響 放射線を浴び続けている現状 内部被ばくを無視する
     IAEA 子供の甲状腺がん 死産・早産の増加
     http://www.youtube.com/watch?v=uPFcn23q7uc
     (2) 14m30s 先天性異常児の増加 リクビダートルの体調異変 ベラルーシの政策変化
     (汚染地からの移住⇒居住)
     http://www.youtube.com/watch?v=0_NRz4vnESc&feature=related
     (3) 10m56s 食品汚染から内部被ばく 脳神経細胞が内部被ばくにより死滅
     http://www.youtube.com/watch?v=SjINkMMCiT0
     (4) 08m44s 続き + 土壌から牧草⇒牛乳⇒人間による内部被ばくの影響
     http://www.youtube.com/watch?v=VQezSZ6nh6c