脱原発を進めよう2


東海第2原発再稼働への重大疑問


東海第2原発運転差止訴訟原告団はそのホームページで控訴審における主張を公開しています。ここではプレゼン資料に基づいてそのあらましをご紹介します。

 

 

1.本件避難計画には実現可能性も実効性もないこと(令和6年能登半島地震の経験からの考察)

(訴訟代理人弁護士 大河陽子氏資料による)

http://www.t2hairo.net/2shingen-shomen/240220presen-hinan.pdf

 

IAEAの深層防護の考え方では「連続した5つの防護レベルを用意すること」「各防護レベルが独立して有効に機能すること」をもとめている。その第5のレベルでは「(放射性物質の事業所外部への)異常な放出に発展しても公衆に対する放射線被害を回避すること」とされている。この第5のレベルが達成されない限り運転は許されない。

 

本年冒頭の能登半島地震においては多数の家屋の倒壊が発生した場合に屋内退避は不可能であることが実証されたにもかかわらず、東海第2原発の避難計画では家屋の倒壊を考慮していない。

 

現行の原子力災害対策指針では「UPZにおいては、段階的な避難やOILに基づく防護措置を実施するまでは屋内退避を原則実施しなければならない。」とされており、それに基づく避難計画はまったく実現不可能である。東海第2原発のUPZの範囲には木造住宅が24万棟あり88%を占め、64%の世帯が居住している。そのうち耐震性の低い基準で建てられている住宅が29%約8万3千戸ある。震度6以上の揺れで旧耐震基準住宅の15%が倒壊すると仮定した場合約11,000戸が倒壊、さらに余震の影響を見積もると、熊本地震での余震での倒壊率を当てはめた場合、28,000戸が倒壊すると予想される。

 

さらに東海第2原発周辺では特に北方向の避難経路における道路は土砂災害危険区域が多く多数か所で通行不能になることが予測されるが、当該避難計画では道路状況の情報提供がなされると記述されているだけで、実際に避難することができるような対応処置は示されていない。

 

 

2.火山事象に対する安全の欠如

(訴訟代理人弁護士 中野宏典氏資料による)

http://www.t2hairo.net/2shingen-shomen/240220presen-kazan.pdf

参考:火山灰の特徴 令和2年4月 大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ 内閣府(防災担当) 

https://www.bousai.go.jp/kazan/kouikikouhaiworking/pdf/syutosanko_01.pdf

 

火山の爆発による降下火砕物の粒径は広く分布する。細かいものはエアロゾルとなって空中に浮遊する。通常火山灰の直径は2mm以下とされるが2.5μmより小さい成分も含まれ、気管支や肺のなかまで到達し、健康に極めて有害である。

 

社会的影響としては農産物の被害に加え、降下した火山灰は視認性を低下させて交通妨害となるほか、湿潤状態になった場合に滑りやすくなって車の走行をや人間の歩行を困難にする、導電性をもって漏電・停電を発生する、各種部材に付着してして機能を妨害する、金属を腐食する、など各種の問題を引き起こす。

 

降下物の量としては1cmから数cmの堆積により道路の通行不能、自動車エンジンの故障などが発生しうる。またこのような社会的インフラの損傷により「広範囲な送電網の損傷による長期の外部電源喪失や原子力発電所へのアクセス制限事象が発生しうる」と主張している。さらには原子力発電所の冷却系統の故障や非常用ディーゼル発電機の故障も危惧される。

 

これらの火山灰による原子力発電所の安全機能喪失について深層防護の考え方では「各防護レベルが独立して有効に機能することが不可欠な要素であるとされている」にもかかわらず原子力規制委員会の審査は後段の防護機能を期待して審査している。これでは安全と評価できず、運転は差し止められるべきである。

 

3.経済被害の評価

(弁護士 尾池誠司氏資料による)

http://www.t2hairo.net/2shingen-shomen/240220presen-keizai.pdf

 

 経済被害の推定は当然のことながら事故による放射線放出の規模に大きく依存する。茨城県が公表した原電のシミュレーションでは事故想定、被ばく線量など種々の要素を過小評価している。その結果経済被害を大きく過小評価している。上岡直見氏の意見書(*)によれば東海第2原発で福島第一原発2号機と同規模の放出がおきたとした場合、GDPの損失が398兆円、宅地家屋の被害158兆円、企業の固定資産の損失110兆円で合計666兆円となる。それに対して東海第2原発を稼働することによる企業の形状利益は30億円を超えない。関東エリアの電力総需要5,437万キロワットに対して東海第2の定格出力稼働110万キロワットで2%程度でしかない。原発を動かすことによる脱炭素などもこの程度でしかない。結論的に原発事故が発生した場合による兆円単位の経済的被害を考慮すれば、運転することによる企業利益ははるかに小さい。運転が差し止められるべき理由として追加する。

(*) http://www.t2hairo.net/2shingen-shomen/kamiokaikensho.pdf

 

                           (2024年4月2日 連絡会事務局)


能登半島地震から学ぶ姿勢のない原子力規制委員会の委員は退場すべきだ!


 能登半島地震が発した原発への基本的な警鐘は下記の1月23日付記事であらかた指摘はされていると考えるが、さらに付け加えるべき、あるいは補強すべき論点を示す。

 

 第1原子力災害の位置づけあるいはその性格付けである。

”1月17日に開催された原子力規制委員会で行われた議論では、家屋倒壊が多数発生するような地震等の自然災害と原子力災害との複合災害に際しては、人命最優先の観点から、まず自然災害に対する安全が確保されたあとに原子力災害に対応することが重要であるという考え方が示された。能登半島地震を踏まえ、原子力災害対策指針における防護措置の基本的な考え方を変更する必要はない”(註1)との考え方と報じられている。一見もっともなように聞こえるが果たしてそれだけでよいのか。

 

 住民が避難しなければならないような原子力災害はこれまでに日本では1999年9月のJCOの臨界事故と2011年3月の福島第一原発事故がある。前者は安全上の必要性から定められた操作手順を全く無視した現場作業の軽減(単純化)から生じた事故であり、後者は大地震、大津波による外部電源ならびに非常用電源の機能喪失により核燃料冷却手段を失った結果の爆発によるものとされている。原子力災害は発生ケースが少ないし個々の原因は様々でありうるし、その対応もまた経験が少ない。また他の自然災害の影響範囲はある程度にとどまるのに対し、原子力災害は最悪の場合、日本列島全体に影響を及ぼすような規模にも発展しかねない。

 

 たとえば自然災害が起点であるとしてもそれに人為的なミスが重なって生じる原子力災害もないとはいえない。それがどのような状況を生み出すかは明確ではないが、たとえば通常想定するような外部・遠隔地からの支援や受け入れが細る場合もあるだろう。

 あるいは自然災害がそれより社会的影響の大きな原子力災害を誘発する場合もあるだろう。志賀原発が稼働しているときに今回の能登半島地震が発生したと仮定すれば一つ具体的な検討はできるのではないか。

 

 M7.0より大規模な地震は発生しないという想定のなかで発生したM7.6の地震、そこで起こった原発ならびに周辺地域の異変・被害の実際をつぶさに調査し、実際には起こらなかったような関連のトラブルも想定しつつ、考えられる限りの複合災害のありようを勉強するのが自然災害・複合災害の経験を生かすことになるのではないのか。

 

 その意味で、今回の事態に「志賀原発が稼働中でなくてよかったね」で終わらすような規制委員は委員としての資格に欠けるし、この際メンバーを一新するべきではないだろうか。

 

 第2に実際には建設されなかった珠洲原発が稼働中だったらどうだったのか?そのシミュレーションが必要ではないのか?

 

 こちらも「珠洲原発がなくてよかった」で済まされそうな雰囲気なのだが、今回の地震の震央に近い立地が想定されていたこと、建設中止が「活断層の連動した大地震の可能性がある」という評価によるものではなく、反対運動が強いことと建設側の御家の事情により建設中止になった、つまり珠洲原発が建設されなかったのは科学的評価が「建設不適」という判断になったものではないことが問題なのである。そして実際に4mに及ぶ土地の隆起が海岸沿いに広く発生したという事実をどう受け止めるのか?連動しないといわれていた小さな活断層が多数連動して大地震となったのはなぜか?想定する地震規模を変える必要があるのでは?また実際に生じた地質学的変動をこの際十分調べて、このような隆起に原発が耐えるように設計されているのかどうか、しっかりと吟味すべきであろう。そしてこのような地質画的変動に耐えられない原発が存在するならば当然のこと廃炉にすべきである。

 

 第3中越沖地震の時の国の対応との比較である。

 

 柏崎市によれば中越沖地震では次のような国の対応がなされた。(註2)

 

”中越沖地震により、運転・起動中の号機は設計通りに安全に自動停止し、「止める」「冷やす」「閉じ込める」という安全確保上重要な機能は正常に働き、また、安全上重要な設備に大きな損傷は見られませんでした。しかし、設計時の想定を大きく超える地震動の原因究明、発電所施設の健全性の確認が必要であり、また、事業者の自衛消防体制、事業者から国などへの情報連絡体制および国・事業者から地元に対する情報提供の在り方などの課題が明らかになりました。

 

このような問題を受け、経済産業省は東京電力に対して地震観測データの分析と安全上重要な設備の耐震安全性の確認を、原子力事業者に対して自衛消防体制の強化、迅速かつ厳格な事故報告体制の構築、国民の安全を第一とした耐震安全性の確認を指示しました。また、専門家からなる「中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会」を設置(当市の副市長も委員として参加)し、

 

1.地震発生時の原子力事業者による自衛消防体制、情報連絡体制および地元に対する情報提供の在り方

2.中越沖地震から得られる知見を踏まえた耐震安全性の評価

3.中越沖地震発生時における原子炉の運営管理の状況と設備の健全性および今後の対応
  について検討を開始しました。”

 

 このように中越沖地震の際はそれなりにこの地震の教訓を得て安全体制を改善するという姿勢が国にあった。しかし、今回の能登半島地震ではそれに匹敵する問題指摘が各方面からなされているにも関わらず、国(原子力規制委員会)からは今のところ何の計画も聞こえてこない。一部のマスコミが的確な論旨を繰り広げているにもかかわらずである。(註3)

 

 なお新潟県によれば(註4)下記のように電力事業者が活断層と再評価したことを事業者も報告を受けた国も公表していない。活断層についてはその評価が原発の立地に決定的な影響を与えることから評価を(その変化も含め)常時公表することを義務付ける必要がある。

 

"平成15年の国からの口頭指示に基づいて東京電力が活断層の再評価を行い、F-B断層をそれまで「長さ7~8kmの活断層ではない断層」としていたものを、「長さ20km程度の活断層」と再評価していたにもかかわらず、自治体への報告や公表をしていなかったことが明らかとなった。

 また、再評価を指示した国も、その結果の報告を受けていながら公表していなかった。"

 このような時代遅れの隠ぺい姿勢では原発規制の改革も覚束ない。やはり規制委員会の人事刷新が必要なのではないか?

 

 第4原発は信頼性の低い電源である

 

政府は太陽光発電や風力発電について短時間での変動が大きいことを理由に原発を「クリーンなエネルギー」に無理やり格上げして2050年までの3倍増をうたっている。しかし地震・火山大国の日本においては大事故発生に至らなくても、大事故の発生危険性を示す事故が起これば原発の安全性の見直しが必要になる。そして現在はバックフィット(過去の基準で認定された施設にも新しく改定された安全基準を適用して設備の改善を求めること)の原則があるから、長期にわたって多数の原発が稼働できなくなる可能性がある。(註5)現に2011年の福島第1原発事故の影響でいまだに再稼働していない原発は多い。つまり原発はエネルギー源として信頼性が低い。危険で、コスト高で、倫理的に許されず、信頼性のない原発という電源にいつまでしがみつくべきなのだろうか?大変な問題を無視して岸田政権は暴走している。

 

 

(註1)国際環境NGO FoE Japan: 能登半島地震を踏まえ要請書を提出ー「原発避難計画・対策指針は欠陥だらけ」「住民を危険にさらす」→規制庁の回答は?, https://foejapan.org/issue/20240201/15993/

 

(註2)柏崎市:「新潟県中越沖地震の概要と対応」, https://www.city.kashiwazaki.lg.jp/soshikiichiran/kikikanribu/bosai_genshiryokuka/1/11/5270.html 

 

(註3)中國新聞ディジタル 社説 2024年1月29日:能登半島地震と志賀原発 再稼働リスク検証し直せ, https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/417590

 

(註4)新潟県:「新潟県中越沖地震記録誌」第7章 中越沖地震に係る柏崎刈羽原子力発電所への影響,第7章第6節 https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/58962.pdf

 

(註5)小林 祐喜:能登半島地震が再提起する日本の原子力利用の問題、笹川平和財団 国際情報ネットワーク分析 IINA、https://www.spf.org/iina/articles/yuki_kobayashi_13.html

                                      (2024年2月20日 連絡会事務局)


能登半島地震は日本列島での原発の立地・稼働の危険性を示した


 2024年1月1日に発生した能登半島地震(M7.6)は能登半島志賀町に立地する北陸電力志賀発電所が運転中であれば原発事故を起こしかねない大事件であった。幸い、福島第一原発事故以後に制定された新規制基準への適合審査が長引いていた結果、2011年以降運転停止状態にあったため、炉内に核燃料はなく、使用済み核燃料もすでに長期にわたり冷却されていたので、たとえ冷却を中断しても急速な温度上昇は起こらないと説明されている。

 

しかしこれはたまたまの幸運な巡り合わせであったにしかすぎず、もし運転中であれば制御棒の挿入による緊急運転停止、引き続き核燃料冷却など、福島第一のような過酷事故に至らないよう連続的な緊急事態制御が必要となり日本中が緊張するような状況を招いたかもしれない。

 

そのような可能性の存在は次のような事態から想像される。

 

(1)今回の地震は多数存在する活断層が150kmに渡り連動してずれ動いたためと推定されているが、原子力規制委員会も志賀原発の事業者である北陸電力も、あるいは地元自治体も、それだけ大規模に連動して生じる地震の発生を予知できていなかった。つまりM7.6の規模の地震が能登半島に発生することを想定していなかった。これは既知の活断層から発生しうる最大規模の地震を正確に予知できないことを示している。

 

(2) 志賀町では最大震度7(最大加速度2828ガル)を記録したが、志賀原発では岩盤の上に立地しているから揺れが小さいという説明で震度5弱、最大加速度は3方向成分合成で399ガルで、基準地震動(水平方向600ガル、鉛直方向405ガル)より小さかったと発表されている。しかし1号機2号機とも一部の周期ではわずかに基準地震動を越えた加速度が記録されており、能登半島地震に対しても余裕のない設計であったことがわかる。

 

(3) 北陸電力の発表によれば志賀原発では基準地震度以下であったにもかかわらず、変圧器の故障により外部電源を一部受電できなくなり、また非常用ディーゼル発電機も一部故障発生が確認された。また変圧器からは20キロリットルと推定される大量の油漏れが発生し、一時は火災発生と発表されたような混乱も生じた。これらの事態は原子炉の運転中であれば深刻な事故に発展する可能性を示すもので、けして軽視できない。

 

(4)志賀原発から30km圏内に設置されたモニタリングポストのうち北側の最大18箇所が欠測の状態となり、住民の避難の判断の基準となる環境放射線量のデータが事故直後から得られない状態が続いた。これは道路、港湾、電力、水道、通信などのインフラが能登半島全域で広範囲に破壊され、避難・救援活動が機能しなかったことと合わせ、地震発生時に原発の過酷事故が発生すれば地域防災計画がまったくの絵にかいた餅であることを示した。

 

 その他、能登半島地震で明らかになった原発の問題点は原子力市民委員会の声明

https://www.ccnejapan.com/wp-content/uploads/2024/01/20240118_CCNE_final.pdf

で総括的に指摘されているが、ここで強調したいことは、過去に珠洲(すず)原発が能登半島の先端部、今回の能登半島地震の震央近くに建設される危険性があったことである。この地域では今回最大4mに及ぶ地面の隆起等が報告されており、原発もこれらの地殻変動には耐えられないといわれる。珠洲原発が実際に建設され稼働していたとすれば能登半島地震による原発危機は増幅され、「日本沈没」と言われるような事態にもなりかねなかったと危惧される。

 

 いや、そういう議論以前に原発推進勢力は「もんじゅ廃止」で実質的に破綻した核燃料サイクル構想を中止せず、現在も行き場のない核燃料廃棄物を増やし、市民や原発建設・維持管理の作業者を被ばくさせ、地球環境を核汚染しつつ、余剰プルトニウムで核爆弾保有を狙っているのではという国際的な批判の視線を浴びながら、最終的には子孫に核廃棄物の管理という負の遺産を押し付ける、という非倫理的な行為に走っている。

 

 4つのプレートが押し合う地質学的に不安定な日本列島は世界有数の地震国・火山国である。しかも地震の発生の予知すら十分できない状態で多数の原発を建設・稼働することは狂気の沙汰といえる。あの安全神話で固めた時代の福島第一原発の事故を忘れたのか!また新たな安全神話で原発事故を繰り返そうとしているのか!

 

 再生エネルギーが地球の温暖化抑止への切り札になることが明らかになり、コスト的にも原発より有利になっている時代に、国費をつぎ込んで原発を延命し、さらには増設しようという岸田政権の方針は日本を滅ぼす狂気の政治である。日本にあるすべての原発を直ちに停止させるべきである!

 

  (連絡会事務局 2024年1月23日)


GXを掲げて原発3倍増をぶち上げる岸田首相の罪は重い!


2023年12月23日(土)に「原発をなくす全国連絡会」の主催で「第9回原発ゼロを目指す運動全国交流集会」という企画がオンラインで開催されました。その内容の一部が下記pdf(全46枚)で公開されています。

https://www.no-genpatu.jp/topics/2023/data/231222_02.pdf

 

この集会の基調講演は「岸田政権によるGX原発推進政策の現状と課題」という題目で大島堅一さん(龍谷大学教授)によってなされました。その中でいくつかの重要な指摘がなされていますので、事務局の理解にしたがって要点をご紹介します。

 

1.岸田首相が自ら率先してGX(グリーントランスフォメーション=化石燃料からクリーンなエネルギーへ)という造語を生み出し、GX実行会議を発足させて推進の仕組みをつくった。GXでは原発を再エネとならんだクリーンエネルギーと位置付けた。そのうえで今までの自民党政権が言い出せなかった「(老朽化炉の)運転期間延長」「新型炉の開発・建設(=原発の新増設)」を打ち出した。(6枚目)

 

2.GX脱炭素電源法では運転期間の判断を規制委員会から経産省に移管し福島第一事故の反省である規制と推進の分離の仕組みを解消した(7枚目)。さらに原子力基本法の改定により原子力発電推進を国の責務として「原子力産業化の永久化」をはかった。これにより原子力基本法は「原子力推進法」に変質した(8枚目)。

 

3.原子力発電・原子力産業は世界的にみてコスト的にも再生エネルギーに太刀打ちできず、衰退産業になっている。それを無理やりに国の資金を投じて延命をはかっている。これは気候変動対策で再エネに最大限の国の資金を集中しなくてはならない現在、その妨げになっている(9枚目)。

 

4.電力需給の一時的ひっ迫の解消に原発は役立たない。平時から原発を運転するとその分他の発電システムが衰退するので、短期間のひっ迫時に対応することはできない。記録的猛暑の2023年に原発の稼働率は極めて低かったが電力ひっ迫は起きていない。原発停止と電力ひっ迫とは関係がない(11枚目)。

 

5.原発の維持政策は多大な国民負担を発生している。原発事故後の12年間で 原子力発電費20兆円、国費投入分5.3兆円、事故対策費用8兆円、合計33兆円の費用が発生している。この先、放射性廃棄物の費用が上乗せされる。2011年から2020年までの10年間に発生したした21兆円の総電気代で3267億KWhの原発電力が得られている。これより1kWhあたり約52円の原発電気代となっており、いかに原発が高いかがわかる(14枚目)。【事務局註:全体の電気料金はこの間1kWhあたり20円から30円の範囲で推移している】

 

6.今後発生するとみられる費用として原発事故の処理費用(廃炉に至る放射性廃棄物の処理処分費用 ALPS処理汚染水海洋放出等を含む)、電源三法交付金のための費用、核燃サイクルの費用、など多方面の多額の費用が予想され、算定困難(16枚目)。

 

7.戦争と原発-武力攻撃に耐えうる原発は存在しない(18枚目)。

 

8.六ケ所再処理工場で事故が発生した場合、福島第一の事故の10倍のセシウムが放出されることが想定され、日本の国土の半分以上、6000万人以上の避難が必要となる(19・20枚目)。

 

9.原発産業は衰退している。原発で(2030年)電力の20から22%供給目標は達成できない(5%程度になる)という見方が多い(22枚目)。

 

10.原発の倫理的欠格(被害影響が不可逆、地域差大、世代を越えて被害が及ぶ)、無責任の構造「無計画・無反省・放置・先送り・免責・ツケ回し・国による手厚い保護」(25枚目)

 

11.原子力発電の「不可視構造」(情報の隠ぺい、不存在、分散、不十分な公開、短期で廃棄」(26枚目)

 

最後に次のようなまとめとなっています(28枚目)。

 

(1) 岸田首相は、原発推進・延命政策を新たに作り出した。 

(2) 電力価格高騰、電力需給逼迫は原発とは直接関係がない。 

(3) ロシア・ウクライナ戦争は原発のリスクを改めて示した。 

(4) 原発は時代遅れになり、衰退している。

(5) 原子力と「無責任」と「不可視」の構造を無くす必要がある。

(6) 原発ゼロに向けた市民の取り組みが試されている。

 

 大島氏の講演は以上ですが、最近の国連の気候変動会議(COP28)にあわせて米国がぶちあげた「世界全体の原発の発電容量を2050年までに3倍に増やす」(2023年12月2日)の宣言に岸田首相は賛同したと報じられています。地球温暖化対策と称していますが、そのためには全力で再生可能エネルギーの利用を拡大すべきであり、経済的にも不利で事故や放射性廃棄物の放出による被ばくや地球環境汚染、さらには使用済み核燃料の保管・処分による将来世代への負担を押付けている原発を3倍増するとは狂気の沙汰であるか、あるいは原発産業からのたっぷりした見返りを期待しているか、どちらかと思われます。

                              (2023年12月27日 連絡会事務局)

 


ALPS処理汚染水に隠れて高濃度汚染水の大量流出は続く!


 本年8月22日に開始された福島第一原発のALPS汚染水の海洋放出は世の中の関心を集めたが、まったく知られざる形で現在も別ルートで汚染水が福島第一原発の敷地から海洋に流出していると指摘されている[1]。

 

 ALPS処理汚染水ではトリチウムに主な論議が集まり、それが国際的な基準(WHOの飲料水基準1万ベクレル/リットル)や国の環境放出基準6万ベクレル/リットルを大幅に下回る1500ベクレル/リットル以下の濃度で排出しているから安全だということになっている。国の理屈では「この濃度の水を公衆が生まれてから70歳になるまで毎日飲み続けたとき、平均線量率が法令に基づく実効線量限度(1mSv/年)に達するとして計算されて導出されたもの」であり、それがトリチウムの場合6万ベクレル/リットルになるという[2] 。

 

 しかし「これでALPS処理汚染水は安全だ」というのは多数の核種の放射能汚染物質が同時に排出されるからには無理があるのは明らかであり、合算量の制限が設けられている。

 

「外部放射線に被ばくするおそれがあり、かつ、空気中又は水中の放射性物質を吸入摂取又は経口摂取するおそれがある場合にあっては、外部被ばくによる一年間の実効線量の一ミリシーベルトに対する割合と空気中又は水中の放射性物質の濃度のその放射性物質についての空気中又は水中の放射性物質の前各号の濃度に対する割合との和が一となるようなそれらの放射性物質の濃度」(「東京電力株式会社福島第一原子力発電所原子炉施設の保安及び特定核燃料物質の防護に関して必要な事項を定める告示」原子力規制委員会)により告知濃度比の合計量1未満とされている。端的に言えば各種の核汚染物質の排出量(濃度)が年間1ミリシーベルトに比べてどのくらいの比率であるかを計算し、その合計が1を下回るようにしなければいけないという決まりである。

 

 これに関して東電は2023年8月の海洋放出では「告示濃度比の総和」が0.28であったとして安全を強調しているが[3]、果たしてそうなのか?

 

 前記[1]の原子力資料情報室のレポートによると「福島第一原発では建屋側への地下水流入を抑える目的で、建屋上流域で地下水バイパスから地下水をくみ上げて、放射線量を測定の上、専用港外から排水している。また同じ目的で建屋近傍のサブドレン、港湾側にある地下水ドレンから、それぞれ地下水をくみ上げて、浄化処理を行い、放射線量を測定したうえで、専用港内に排水している。」とのことである。さらに専用港に排出されたものは時間をかけて外洋に流れ出す。その交換率は1日あたり0.44とのことで、見かけ以上の量が専用港に流入しているのである。

 

 それでは量的にはどのくらいの排出量なのか?[1]では排出量を実測できていない部分を専用港の海水の量と放射線量から推定している。その結果は福島第一原発の専用港への推定放出量がセシウム137で月次70億から96億ベクレルになるとのことである[1]。これはALPS処理汚染水の放出管理目標 月次400万ベクレルに比して2000倍程度となる。そのほか全βが2500億ベクレルから2900億ベクレルになりALPS処理汚染水の放出管理目標の約100倍となる。詳細は不明としても注目されているALPS処理汚染水の他に、はるかに大量の放射性物質が現在も多くの人に知られないまま流出していることは大問題である。このような状態を見逃している現在の規制システムや原子力規制委員会の姿勢にも大きな問題があるといわざるを得ない。

                                       (2023年12月12日 連絡会事務局)

 

[1] 福島第一原発は今も放射性物質を放出している―ALPS 処理汚染水放出問題で考慮すべき新たな論点-NPO法人 原子力資料情報室: 

https://cnic.jp/wp/wp-content/uploads/2023/07/202308_fukushima_emission_final.pdf

 

[2] 放射性廃棄物に対する規制について-平成30年11月30日-原子力規制庁: 

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/011_03_02.pdf

 

[3] ALPS処理水海洋放出の状況について 2023年9月28日  東京電力ホールディングス株式会社:

 https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2023/09/09/3-1-3.pdf


一企業の利益優先で発生した原発汚染水  そのツケを国民に押し付けるな!


 2022年3月5日にNHKで放送されたETV特集「原発事故・幻のシナリオ~埋もれた遮水壁計画~」という番組がある。(現在でもNHKオンデマンドで視聴可能)東電が運転コスト削減のために福島第一原発をせっかくの台地を削って低いところに建設した、そのために大量の地下水(1日1000トン!)に洗われる原発となったという原発立地の問題点も触れられているが、焦点は2011年3月の原発事故発生から数か月間の「遮水壁建設計画」の攻防である。

 

 日本の専門家や米国原子力規制委員会(NRC)の助言などで政府(当時は民主党政権)幹部は遮水壁(粘土や構造材料による通常のもの)の必要性を認識していたが、東電は浄化装置を通して将来は海洋放出できるという考え方で、汚染水の増加問題を重視しなかった。政府が東電に建設を促すと、1000億円くらいの費用負担を発生すると予測し、債務超過から株価下落、経営破綻に発展する虞があるとして、経営陣が最大限の抵抗をした。政府幹部はその民間企業の抵抗をやむえないものと認識していた一方で、一企業の責任で生じた事故の後始末にそれだけ高額の政府資金を支出することを国会で通す見通しが立たないという官僚の反対があり、政府資金を用意できないまま東電に建設を急がせた。報道発表前日になって東電は「遮水壁の建設は経営破綻に繋がるという評価もありうるので報道発表だけはやめてほしい」と泣きこんできて、政府(経産)もそれを認めた。しかし数か月後、東電は遮水壁の建設は中止とし、2017年に政府資金を得て凍土壁ができるまで大量の汚染水をためこんだ。それが今回の海洋放出につながった。番組ではこういう歴史的経過が語られ、取材を受けた政府要人や東電もあらまし事実関係を認めている。

 

 米国ではハンフォードで核兵器関連の放射性廃棄物をドラム缶にいれて地中に埋めるという処理をしたが、時間が経過するとそのドラム缶が腐食して内容物が地下水によって地中を動いていくという苦い経験を得ていた。米国原子力規制委員会(NRC)は福島第一の事故発生とともに強力な地下水対策を日本に進言したそうだが、それが採用されなかったのは残念だったと言っている。日頃米国の言いなりになっている日本政府がそういう大事な米国の助言は軽視するというチグハグを露呈している。

 

 上記番組をみて改めて福島第一原発事故後の汚染水問題を振り返ると、民間企業が安全を犠牲にして事故を発生した後も相変わらず放射能被ばくを軽視し企業利益優先で動いていること、また日本の政治がいかに将来を見通す力がないのかを知り、慄然とする。2011年に遮水壁をつくっていれば現在のように大量の汚染水をため込むこともなく、海洋放出を言い出す必要もなく推移していた可能性がある。そのツケを今、我々やこれからの世代が払わされるという現実にNoの意思表示をする必要がある!

                                                                                                                    (2023年11月28日 連絡会事務局)


「増設ALPS配管洗浄作業における超高濃度汚染水の飛散と人体被ばく事故」-問われる東電の責任-


 2023年10月25日、東電福島第一原発のALPS汚染水処理装置において作業員が入院しなくてはいけないほどの被ばく事故が発生した。

 

 「増設ALPS配管洗浄作業における身体汚染発生」 (東京電力ホールディングス株式会社)10月26日の発表を訂正した10月31日付の資料は下記に掲載されている。

 https://www2.nra.go.jp/data/000457832.pdf

 

 概要は「2023年10月25日 10時40分頃、増設ALPSのクロスフローフィルタ出口配管内の洗浄作業を実施していたところ、洗浄廃液を移送していた受入タンク内から仮設ホースが外れ、近傍で作業を実施していた協力企業作業員2名(A,B)に洗浄廃液が飛散した。」(上記資料)とされ4名が身体汚染(高濃度汚染水による被ばく)を発生し、うち2名は除染しても退出基準まで下がらないので福島県立医大付属病院に入院した(3日後に退院)とされている。

 

 直接の原因は「ALPSの運転に伴い配管内に溜まった炭酸塩を硝酸で溶かして洗浄する作業を実施」していたが「配管内部に溜まった炭酸塩と洗浄薬液(硝酸)の反応によって発生したガスが、受入タンク内のホース先端部から勢いよく排出されたことによりタンクからホースが飛び出し、近傍で作業を実施していた協力企業作業員2名(A,B)に洗浄廃液が飛散し、汚染した。」と上記資料では報告されている。さらに高濃度に汚染された作業員は作業基準に違反して耐水性のアノラック(カッパ)を着用していなかった、またホースがはずれたのは紐での先端固定位置が不適当であったためと、東電は現場作業の責任に主原因があるとしている。

 

 しかし、そもそも洗浄廃液と称するものが、ストロンチウムなどの炭酸塩を硝酸で溶かした1リットルあたり44億Bq/Lという超高濃度放射性廃液であるにもかかわらず、作業現場が3次下請け3社の共同作業になっており、被ばくした作業員は経験が浅い一方、いるはずの経験豊富な責任者が不在であったり、アノラックの着用が徹底されていなかったり、作業体制の不備は明確である。

 

 また年に3回はこのような洗浄作業を行って1回あたり300から500リットルの廃液をタンクに集めているというが、そのような作業をお粗末な仮設設備で行っていること自体が、反応ガスの圧力でホースがはずれ暴れて超高濃度廃液が噴出したという事故につながっている。(数リットルという総排出量も根拠のある数字ではなく桁違いに多い可能性もある)

 

 作業そのものを東電は下請けに任せにしていたこともあるだろうが、事故の状況についても迅速・正確かつ詳細に発表するという姿勢がなく、マスコミの質問に答えて情報を小出しにするという姿勢がありありで、この事故を過小評価で済ませたいという方針で対処しているかのようである。

 

 11月14日現在でも飛散した汚染水の核種別放射線量率や汚染水の飛散総量は不明である。

作業現場は指揮系統、教育訓練、設備的防護など労働安全に必要な基準を満足していなかった疑いも強い。また硝酸で溶かした超高濃度放射性汚染水を扱うプラントにふさわしいシステムではなかったと批判されている。原子炉等規制法に基づく「特定原子力施設」であるから、東電は本来このような危険な作業を「実施計画」の中に含め原子力規制委員会に届けるべきではないのか、等々東電に対する疑問と要求事項は山積する。 この状況で柏崎・刈羽原発を再稼働させる資格があるのか大いに疑問である。

 

 なおこの問題に関する批判的報道として現在下記の2件がある。

 

まさのあつこ 地味な取材ノート

https://note.com/masanoatsuko/n/n7f94b1728993?sub_rt=share_sb

おしどり ポータルサイト

http://oshidori-makoken.com/2023/11/05/%E3%80%90%E6%B1%9A%E6%9F%93%E6%B0%B4%E3%81%8B%E3%81%B6%E3%82%8A%E4%BA%8B%E6%95%85%E3%80%91%E6%9C%80%E3%82%82%E8%A2%AB%E6%9B%9D%E3%81%97%E3%81%9F%E4%BD%9C%E6%A5%AD%E5%93%A1%E3%81%AE%E7%A4%BE%E3%81%AF/

 

                             (2023年11月14日 連絡会事務局)


トリチウムを含む原発汚染水の海洋放出はすぐに中止を!その2


下記の「トリチウムを含む原発汚染水の海洋放出はすぐに中止を!」の記事によって原発汚染水の海洋放出の問題点は概ね指摘されているが、さらに次の観点から、海洋放出を避けるべきであることを付け加えたい。

1.日本が批准している「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(通称:ロンドン条約、1972年)は放射性物質も含めて海洋汚染を避けるためのあらゆる努力をすることを締約国に義務付けている

 ロンドン条約あるいはそれを補強したロンドン議定書(1996年)については残念ながら「陸上からの投棄は禁止していない」というのが日本政府の見解であり、また他の多くの国も陸上から放射性汚染水を海洋に排出している実態はある。しかしロンドン条約の第1条では「締約国は、海洋環境を汚染するすべての原因を効果的に規制することを単独で及び共同して促進するものとし、また、特に、人の健康に危険をもたらし、生物資源及び海洋生物に害を与え、海洋の快適性を損ない又は他の適法な海洋の利用を妨げるおそれがある廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染を防止するために実行可能なあらゆる措置をとることを誓約する。」とある。この条項から判断するとたとえ陸上からの投棄が禁止されていないとしてもこの条約の精神からすれば「海洋汚染を防止するために実行可能なあらゆる措置をとることを誓約する」のであるから、他の適当な代替案のある原発汚染水の海洋放出は少なくとも道義的には許されないだろう。汚染水の濃度を薄めたとか、トリチウムの害は少ないとか、あれこれ弁解しているのも、本質的に放射性物質が本質的に人・海洋資源・海洋生物にとって有害であるからにほかならない。

2.有力な代替案はある
 経産省の設置した(通称)トリチウム・タスクフォースや ALPS小委員会などは最初から前のめりになって海洋放出を推進する議論、選択をおこなっているが、ICRPの流布している「トリチウムの害は少ない論」に乗っかったものであり、風評被害等の対策も考慮せず「他の方法に比べて費用が著しく安い」という見積もりを示して推進したものである。実際には漁民との約束を反故にして強行したものとなり、また実際には風評被害対策や漁業の維持のための費用、海底トンネルの建設も含め1000億円以上の費用を追加して他の方法よりも高くついている面があり、詐欺的手法であったとも言える。
 トリチウムは半減期が12.3年であるから何らかの方法で100年程度安全に貯蔵して、減衰を待つとともに分離・濃縮等の技術の発展を待てば「現時点で環境に放出する」という愚行は避けられる。そのための代替案としては石油業界で実績のある大型タンク等での陸上保管やモルタル固化で地上・地中に保管という代案も提案されているが、一番有望なのは技術実証のされている大深度(1000m以上)の地下貯留と思われる[1]。日本政府も二酸化炭素の排出量削減のためにCCSと称する同様の技術を2050年までの間に大規模に使用するという計画なのであるから、汚染水の地下貯留も技術的には問題なく、あとは法的環境整備だけである。
 またトリチウムの分離・濃縮技術の状況をみても現時点で実用に近い規模の実証実験[2]もなされているし、将来的にはフィルター形式の新たな方法[3]も実用化できる可能性もある。いわゆる「風評被害」や「沿岸漁業への打撃」を承知の上で、その問題を避けられる有力な代替案を相手にしないとするのは、海洋放出に固執する他の要因があると推定せざるを得ない。今後30年から40年は続くという海洋放出を速やかに中止して代替案に移行するべきである。

3.”再処理工場からの桁違いに多いトリチウムの海洋放出”が本来の狙いか?
 ここで 小出裕章氏の指摘[4]を参考にすると建設中の六ケ所再処理工場で予定されるトリチウムの排出量は福島第一事故で現在たまっている量とは桁違いに大きいが、それが海洋に放出できないとなると日本の原子力政策が破綻するという問題があるようだ。
 これを数量的に確かめてみると原子力情報資料室によれば[5]「計画通り年間800トンの使用済み核燃料を処理すると毎年、約9700兆Bq のトリチウムを海洋に、約1000兆Bqのトリチウムを大気中に放出することになる」という推定がなされている。つまり福島第一で現在までにたまった800兆Bqより10倍以上多い量を(数十年ではなく)1年間で放出するという話になる。これを実現するには「福島第一でトリチウムの海洋放出が何の問題なく進んでいる」という実績作りが必要なのだろう。福島第一は前哨戦であって「核燃料サイクルと六ケ所再処理工場の建設の中止」が”主役”として登場することが予測される。

[1] 岩佐 茂・中山一夫・西尾正道:原発汚染水はどこへ(学習の友社).
[2] 井原辰彦ほか:汚染水からトリチウム水を取り除く技術を開発
https://www.kindai.ac.jp/news-pr/news-release/2018/06/012947.html
[3] RosRAO:トリチウム分離技術検証試験事業
https://dccc-program.jp/files/20160526RosRAO_j.pdf
[4] 志葉玲:「日本のメディアは腐っている!」海洋放出の“真の理由”、小出裕章さんが熱弁
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/415a0abe71ecf7c1de72e1476178be680e36fde1
0e36fde1
[5] 姜政敏・松久保 肇:寄稿 視点:使用済み燃料再処理は日本のトリチウム問題を拡大する

https://cnic.jp/9010
                                 (2023年10月16日 連絡会事務局) 


トリチウムを含む原発汚染水の海洋放出はすぐに中止を!


 政府・東京電力は福島第一原発の大量の汚染水を「貯蔵スペースが不足するため」という理由で 8月24日から太平洋に放出を開始しました。この作業は今後30年程度続くとされています。

 当連絡会は次の観点から政府・東電の判断の誤りを指摘し、責任を追及し、海洋環境を核汚染することによりさらなる人類への打撃を与える原発汚染水の海洋放出に反対し、当面ただちに海洋放出を中止することを求めます。

(1)そもそもこの汚染水は福島第一原発事故に由来して発生しているもので、その事故を引き起こした政府・東電に根本的な責任があります。

(2)敷地内にタンク保管できなくなっている理由の第一は事故発生した原子炉跡に流入する大量の地下水を遮断できないでいることによるものです。政府・東電は原子炉の周囲の地盤に「凍土遮水壁」なる実績のない防御壁をめぐらして汚染水の発生を遮断するという方法に固執して建設を強行しましたが、大量の流入漏れを防ぐことができず毎日100トン以上の汚染水を発生させています。その失敗の責任もとらず「海に流せばよい」という地球環境汚染を正当化する対応は許せません。

(3)原発汚染水の処理が問題として表面化して以降、よりましな方法として地下貯留、モルタル固化、当面の陸上保管の継続と新たな対処法の開発、など種々の対案が提起されていますが、政府・東電は「海洋放出ありき」でまともな検討をしていません。

(4)2018年に至るまで東電はタンク貯蔵された原発汚染水についてALPSによる浄化処理によりトリチウム以外の核種は規制基準以下になっているとして、問題になる汚染物質はトリチウムだけであるかのような説明をしてきました。しかしそれは多核種の汚染物質が排出基準以上に残存していることを隠ぺいした虚偽の説明であったことが発覚いたしました。これにより東電の説明は事実についても都合の良いことしか述べおらず信用できないことが証明されています。今回の海洋放出についても事実関係すら信用できません。

(5)政府は海洋放出の方針を決めて以降、その影響を直接的に受ける漁民や県民に対する説明を十分行っていません。特に 2015年8月に政府は福島県漁業協同組合連合会(県漁連)との間で「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」という約束をしています。県漁連の会長は8月22日の段階でも「生活の場である海に放出されることは従来通り反対だ」と経産大臣に伝えたとしていますが、政府は約束を反故にして海洋放出を強行しました。このように政府は国民の反対をまったく無視して「聞く耳をもたない」政策を強行していることは許せません。

(6)政府は「漁民に及ぶ風評被害だけが問題でそれは補償で対応すればよい」という考え方で進んでいるように見えますが、漁民の生業の回復、地元産業の復興の努力を無にするものです。

(7)さらに問題は風評被害だけではありません。トリチウムを大量に含む汚染水を太平洋に投棄することに対して、中国は安全性に問題があると外交的にも反発をしていますが、その他の国でも不安を表明する動きは少なくありません。
 そもそも放射性物質としてのトリチウムの害は小さいとされているのは、国際的に核兵器の活用や原発の普及推進を狙う勢力が後押しするICRP(国際放射線防護委員会)というNGOが展開している「内部被ばく軽視・無視」路線によるものです。これにより人体内で微粒子放射性物質から至近の範囲(数十ミクロン)で発生する集中的な被ばくの影響(内部被ばく)が、体内全体に均一に分散して作用したとしてしか評価されず、外部被ばくに比して 10の8~9乗分の1程度の過小評価になっていると考えられます。さらにトリチウムが水素の代わりに生体内組織に結合して有機結合型トリチウム(OBT)となった場合の影響も大幅に過小評価されています。実際には原発起源のトリチウムが周辺で人体に悪影響を及ぼして白血病やがんの多発を招いているとする報告もかなりの数で発表されています。(参考文献1参照)

 このように福島第一原発事故発生の上に、さらなる悪行を積み重ねることになる原発汚染水の海洋放出に当連絡会は強い反対の意思を表明します。
                                          (2023年9月21日 事務局)
以上

(参考文献1)西尾正道:被曝インフォデミック, (2021), 寿郎社。